見出し画像

2023年4月から始まったマンション管理組合への助言・指導及び勧告制度とは

2021年マンション管理適正化法が改正されました。
もっとも大きな変更点はマンション管理適正化指針の明文化です。

(管理組合等の努力)
第五条
 管理組合は、マンション管理適正化指針(管理組合がマンション管理適正化推進計画が作成されている都道府県等の区域内にある場合にあっては、マンション管理適正化指針及び都道府県等マンション管理適正化指針。次条において同じ。)の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずるマンションの管理の適正化の推進に関する施策に協力するよう努めなければならない。
 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない。

マンション適正化法5条

これまでの経緯

この法律が改正された翌年から管理計画認定制度が開始されました。
この制度はマンション管理を適切に行っているマンション管理組合に対して国土交通省がお墨付きを与える制度です。
言わば優良なマンションを公にできるインセンティブを与える制度です。

そして今年4月に制定された制度がマンション管理組合への助言・指導及び勧告制度です。

これは、以前から自治体が行っていたマンション管理届出制度(東京都の場合)をベースに不適切な管理を行うマンション管理組合を炙り出し、助言、指導、勧告を行う制度です。

管理計画認定制度とはまったく異なり、届出制度の義務があるにも関わらず無視した管理組合に対して積極的に行政がアプローチを行い改善を促します。
言わば、イエローカード制度とも言えます。

現在の法律は勧告までですが、今後の改正次第ではレッドカードを定める可能性まで予感させます。

助言・指導及び勧告制度はガイドラインが示された段階ですが、これから数年で各自治体は制度を制定、実施を迫られることになります。

自治体は助言・指導及び勧告制度の公表は寝耳に水だったこともあり、現在、国土交通省が示したガイドラインをどのように制度化するかを検討しています。

なぜ、自治体がこのような制度を受入れるのかについては、滋賀県の廃墟マンションの行政撤去に端を発していると言われます。
区分所有者全員が老朽化したマンションを放棄、その後廃墟化、自治体は数億の税金をかけ行政代執行を行いました。
現在、ちりじりになった区分所有者のへの費用負担を行っていると聞きます。

このような事態が今後十年後には全国で多発する可能性が高く、これに危機感を覚えた国土交通省が今回の改正を行った理由です。
自治体も行政代執行には多大な費用がかかる上、すべてを回収できると思っていないようで、それに至るまでに廃墟化を防ぐことが経費削減になると考え、助言・指導及び勧告制度を受入れたようです。

飴と鞭

管理計画認定制度が始まった当初、マンション管理組合は積極的ではありませんでした。
理由は簡単で制度の認定を受けたところで、手間暇ばかり必要で組合員に見返りがないことでした。

そこで、国土交通省は幾つかのインセンティブ(特典)を2022年12月までに公表しました。
1、修繕時の借入金の利率の優遇
2、物件購入者へ融資利息の優遇
3、マンション・すまいる債の金利の上乗せ
4、長寿命化促進税制(建物固定資産税の減額)

特に3、4はマンション管理組合にとっては大きなご褒美として受け入れられました。(4については国会にて税制として定めた)
固定資産税の減額は組合員一人一人が直接受けられるご褒美です。
この制度が始めると組合員からの突き上げも始まり、理事会も本気で管理計画認定制度の認定取得に動き始めています。

一方、国土交通省の適正化指針に応じないマンションには鞭が準備されています。
勧告に応じないマンションの実名の公開です。
ガイドラインには実名の公開は記載されていませんが、自治体が助言・指導及び勧告制度を創設する中に実名の公開を加える可能性があります。
もし、これが制定されると勧告に応じない場合、不適切マンションとして一般に知れ渡ります。
これにより、市場での価値は低下、売買による処分の可能性は著しく低下することになるでしょう。

管理計画認定制度で優良なマンションを公開、助言・指導及び勧告制度で不適切なマンションを公開することになれば、中古マンションを購入する時の判断材料になり購入希望者にとってはありがたい情報です。

無関心な管理組合

適切な管理を行うマンションは行政の動きを日頃からチェックしますが、不適切な管理にあるマンション管理組合はこのような情報に疎く、制度そのものを知らないケースがほとんだと想像できます。

そこで国土交通省は鞭として助言・指導及び勧告制度を創設することにしたと考えられます。
改正適正化法を無視することは許さない。

今までのマンション行政はどちらかと言うと性善説に基づき、マンション管理組合は自主的に適切な管理を行うだろうと考えられていました。
そのため、助言・指導及び勧告制度などの行政が直接改善を求める施策はありませんでした。
しかし、いくら待っても改善しない管理組合が多数存在することに業を煮やした国土交通省は性善説を止め、積極的な関与に舵を切ったことになります。

今後数年で激変するマンション行政

助言・指導及び勧告制度のガイドラインは公表されたばかりで、実際自治体が制度化するには1年~3年程度は必要になると思われますが、この施策が始まると今まで不適切な管理を行っているマンションは勧告を受け、半強制的に適正化することになるでしょう。
しかし、適正化には修繕が伴い、当然多大な費用が必要になります。
今まで無関心だった組合にそのような費用が工面できる可能性は低く、結局は不動産会社へ売却される結末になると予測できます。

国土交通省としてはそれでも良いと思っているはずです。
廃墟化により周辺地域へ悪影響を与えるマンションは不動産会社により再生されます。
当然、自治体も行政代執行に至らず、経費削減ができます。
この制度は、イエローカードを提示、従わない場合はレッドカードを突きつける制度と言えます。

まとめ
これまでお話ししたように国土交通省は、マンション管理を管理組合の自主性に依存してきました。
しかし、一向に改善されないことでマンション行政の舵を大きく変えたことがご理解頂けた思います。
2021年以降の国土交通省のマンション行政は本気で不適切な管理を続けるマンションに住宅市場からの退場を求めるいると言えます。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?