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共有の見直し(民法改正)

前回は民法改正の相隣関係の見直しについて説明しました。
今回は「共有の見直し」について、要点を説明します。

共有は試験でもよく出る分野です。
改正された内容をしっかりと理解しておく必要があります。

共有とは?

共有とは、 同一の物を複数人で共同所有することです。
共有の基本的なルールで重要なことは次の3つです。
1、変更・・・共有者全員の同意を要する。(現民法第251条)
2、管理・・・各共有者の持分の過半数で決する。(現民法第252条 本文)
3、保存・・・各共有者が単独ですることができる。(現民法第252条)
区分所有法とも大きく関わる部分です。
しっかりと覚えるようにしましょう。

改正の内容

1、共有物の「変更」に関する改正

従来の民法では共有物に変更を加えるには、共有者全員の同意が必要と定めています(現行民法251条)。

1)変更って何?

民法の変更はなかなか判り難いことで有名ですが、共有物の変更とは、共有物を物理的に変形させる行為等をいいます。
効用の著しい変更を伴わなう変更がそれにあたりますが、具体的に増改築をイメージすると良いでしょう。
注意としては農地を住宅地に変えるような変更も該当します。
このような変更を行う時は共有者全員の同意が必要です。

2)所在不明の存在

共有者全員の同意が必要になると厄介な存在が所在がわからなくなっている人です。
民法が制定され長い時間が経ちます。
その間には共有されていた建物等でも所有者の所在が死亡や移転等により正確に把握できない人が出てきました。
しかし、民法では共有物の変更には全員の同意が必要です。
所在を確認するだけでも大変な作業が伴うこともあります。

3)改定のポイント

そこで改正新法では、共有者が誰であるか不明、又は共有者が行方不明のときは、裁判所にその共有者(以下「所在等不明共有者」といいます。)以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができることとされました(新民法251条2項)

マンションでは所在が不明の組合員が該当します。
所在がわからない組合員を除く全員の合意を得た上で裁判所に、変更の実施を求めることが出来るようになったわけです。

*現在、区分所有法の改正が検討されていますが、今回の民法の改正を受け、「所在等不明共有者」の区分所有者を議決の際の分母から除くことが検討されています。
裁判所に請求する必要をなくすことで管理組合が迅速に変更行為を行えるようにすることが目的です。

4)過半数を持っている人が所在不明になった時

所在等不明共有者の持分が、所在等不明共有者以外の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が所在等不明の場合であっても利用できます。

持分の割合や人数に関わらず、裁判所に請求、認められれば変更ができます。
これも凄く画期的な改正になります。

2、共有物の「管理」に関する改正

従来の民法では共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分価格の過半数で決めるとされています(現行民法252条)。

1)軽微な変更は過半数

形状または効用の著しい変更を伴わない変更(軽微変更)については、持ち分の過半数で決定できるように改正されました。(新民法第251条 第1項、第252条 第2項)

区分所有法で定めている内容と同じです。
共用部分については、総会議決の過半数、所謂、普通議決権で決定すると言うことです。
これが民法にはっきりと明文化されました。

2)所在等不明共有者・非協力者への管理決定

変更でも説明しましたが、所在等不明共有者は管理の決定にも障害になります。
そこで管理についても変更と同様に所在等不明共有者に対しての定めがされました。
また、非協力的な共有者に対しても新たな定めがされました。

裁判所は、次に掲げるときは、その共有者以外の共有者の持分価格の過半数で、共有物の管理に関する事項を決めることができる旨の裁判をすることができることとされました(新民法252条2項)。

〇 共有者が誰であるか不明、又は共有者が行方不明のとき
〇 共有者に対し、共有物の管理に関する事項を決めるにあたって賛否を明らかにするよう催告した場合において、その共有者が相当期間内に賛否を明らかにしないとき

かなり画期的な内容です。
特に「賛否を明らかにするよう催告した場合において、その共有者が相当期間内に賛否を明らかにしないとき」とは議決権行使書等で意志の賛否を明らかにしない場合に適用が出来ると解釈することができます。

例えば無関心な組合員が多い組合で特別議決権を要するような議案を決定する時にこの方法を使用すると今より容易に合意形成ができる可能性が高くなります。

(注意)
建替えや売却等は管理ではなく変更になるため、非協力的な行為は対象になりません。所在が不明な人に限定されます。
共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用できません。
そこで、現愛検討されている区分所有法の改定案では、非協力的な組合を議決数の分母から除くことが検討されています。

3、短期賃借権等の設定についての改定

今回の改定では次にあげる項目について短期賃借権等の設定を持分の過半数で行うことが出来ると改定されました。

(1)樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等は10年を超えない範囲
(2)(1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等は5年を超えない範囲
(3)建物の賃借権等は3年を超えない範囲
(4)動産の賃借権等6ヵ月を超えない範囲

ただし、建物の賃借権は注意が必要です。
建物の賃借権は借地借家法の適用を受ける場合があります。
約定された期間内での終了が確保されません。
基本的には、共有者全員の同意がなければ無効となる場合があるため、注意が必要です。

共有物を使用する共有者がいる場合のルールの明文化

1)管理に関する事項の決定方法

共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができる旨、明文化されました。
(新民法第252条 第1項 後段)

当たり前に解釈されていましたが、明文化されたことで法的に認められたことになります。

マンションの共用部分は共有物で全員が使用します。
区分所有法では定めてありましたが、民法には定めがありませんでした。
共有物の管理は規約や細則で定めています。
規約の場合は区分所有法が優先するため3/4の特別議決、細則は過半数の普通議決で決められるルールに影響することはありません。

2)共有物を使用する共有者の対価支払義務

共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。ただし、共有者間で無償とするなどの別段の合意がある場合には、その合意に従います。
(新民法第249条 第2項)

複数で所有するマンションをその中のひとりが独占的に使用しているような場合はよくあります。
このような場合に、独占的に使用する人は、持分に従い他の共有者に対価を支払う必要があると言う意味です。

マンションでは1階の独占的に使用する庭やテラス等が該当します。
皆の共有物を独占的に使用しているわけですから当然使用料(対価)を支払うことが規約に定められています。
区分所有法には定めていましたが、民法にも同様の定めが規定されたことになります。

3)共有者の善管注意義務の定め

善良な管理者の注意をもって、共有物を使用しなければいけません。
(新民法第249条 第3項)

えっーー善管注意じゃなかったの?
と思う方も多いと思いますが、共有所有者については明確に規定されていませんでした。
今回の改定で明文化されました。
意外ですよ。


まだ分割請求等に関しても改定がされましたが、あまりにも文字数が多くなるため、次回に続けることにします。

今回の民法の改定は、各試験にも出題される可能性があります。
是非、理解してください。

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