間借りカレー地獄変~3~

 試作、試作、また試作。間借りカレーをやるかもしれないと決めてひたすら試作をしている。ハンバーグを使うのは決めた。インドとかにもコフタって肉団子がある。これは確定にしたいと考えている。しかしカレー本体、いわゆるカレーソースが決まらない。考えているカレーのコンセプトは「肉を楽しめるカレー」だ。だからパキスタンの汁っけが少ない形で突き進めているがいまいちしっくりこない。

「最初からコレ!ってなるのはないだろう。作っていけばそのうち見える」

 そう言い聞かせながら試作しては食べまくり体重がゴリゴリ増えて今現在糖質制限をするに至るがそれはまた別のお話。。。ひたすら続く試作の日々、そんな中、やっと光明が見えてきた。パキスタン風ではあるが、多少欧風の雰囲気を加えることでより自分が好きなカレーの形が見えてきたのである。

「ええやんけ!あんまり食べたことない味や!これはもしかするぞ!」

 そんな中、インターネット知人だった方がカレー屋をオープンすると聞き、試食会をやるとのことで参加してみた。どんなカレーだろうか。でもまあカレーってジャンル広そうに見えてカレーやさかいな。この前自分で作ったカレーはだいぶ変わっとるし自信持ってええやろ。それよりもお店やることの質問などを色々してみよう。どんな世界でも先輩から教わるのは勉強だ。

 某日、仲の良いインターネット知人たちが集合しているそのお店に行った。カレーくださいな!あいよ!

「ななななななななんじゃこら~!?!?!?!?」

 出てきたのは自分の脳内にあるカレーフォルダに登録されていないビジュアル、香り、味、そして何よりインパクトだった。なんだこれは、一口ごとに違う味がする。この緑の何?このスープ何?え、俺は何を食べてるの?カレー?よくわからない。よくわからないが今まで食べた物の中でトップレベルにうまい何かが口、胃袋、心を満たしていく。なんだこれは。38年生きてきて大抵のものは食べてきたはずだ。しかし、そんな、まさか?まだ食べ物で驚くことができるのか?まだ食べたことがないものを食べることができるのか?まだ言葉で表現できない食べ物があったというのか?

 スプーンの上に小さな丘がある。これを食べてしまうと食べ終わってしまう。上京前、梅田にある観覧車で一番高いところから大阪を見下ろした時と同じ気分だ。これが終わるとしばらくこれを味わえなくなる。そんな思いが最後の一口を躊躇させる。そんな時、こんなウルトラフードを作った店主が口を開く

「どうでした?」

「うまい。うますぎます。自分もカレー屋をやろうとしていたのですが。。。何というか。。。打ちのめされたというか。。。」

「え!本当ですか!どんなカレーですか!?」

 自分が提供する予定のカレーを説明すると店主は嬉しそうに聞いてくれる。そしてカレーだけでなく色んな事を教えてくれる。胃袋も心も満たされ、幸せの絶頂にいるはずの私は必死で薄ら寒い思いを隠していた。

「やっべえ、俺、全然ダメじゃねえか」

 帰宅して試作したカレーを食べて思った。あのカレー、あのカレーにどうやって対抗する?いや、対抗する必要はない。そんな事する必要は全くない。しかし、考えてしまう。俺のカレーはこれで良いのか?あんな驚きをお客様に出せるか?あんな味を届けられるか?あの衝撃を感じさせられるか?

 試作の毎日が止まる。今は手を止める時だ。頭を使え。思いきり頭を使え。どうする?何を?多分、足りない。このカレーには何かが足りない。だがそれが何かがわからない。確かに味には自信がある。しかし、それだけで商品として成り立つだろうか?味が良くてもなくなってしまうお店は多い。味、味が良いのは店として「当たり前」なのだろう。そこからなのだ。自画自賛で恥ずかしいが味は割と良い。しかし、それだけだ。

「自分は美味しいだけの店に行くか?」

 答えはNOだった。大好きなパキスタンカレー屋はうまい。しかし移動が億劫で近所のインネパ系に通っている。電車にして約30分をケチっている。店をやって、生きていくにはお客様にこの「30分」にどう価値を見出してもらうかが大切なのではないか?その価値は「美味しい」だけか?美味しいを特化した化け物みたいな店もあるだろう。しかし、私は「美味しい」は人によって異なると定義している。いや、今、自分のカレーに感じている「美味しい」は、店をやるかもしれない自分を納得させるための詭弁なのかもしれない。

 カレーを出すイベントが近づいている。試作品を出す。トークイベントって形だが、実際はカレーの味見イベントだ。そこでこれを出すのか?出す。出してみる。今は考えすぎるな。まずは出してフィードバックをもらえ。結果が出る前に考えすぎて変なことして結局良くわからなくなるのは悪い癖だ。失敗を恐れるな。38年生きてきてろくに社会生活もしていない私の人生は最強に失敗している。だから小さな失敗は恐れるな。

 ありがたいことにイベントは盛況の中で終わった。みんな美味しいと言ってくれた。しかし作った人の前で「マズイ!」と言える人間はそういない。だが、一人の友人がこういった。

「もう一発パンチがほしいですよね。店主さんが作った割には大人しいなと思いました」

 パンチ。。。そうか、私は失敗しない道を歩もうとしていた。だからこそある程度変わったカレーをある程度予想できる味で出そうとしていたのかもしれない。パンチ。。。パンチを加えるってどうしたら。。。パンチってなんだよ。。。カレーにパンチしたらええの?そんなん怖いわ。

 試作は止まったままだ。時間だけがすぎる。串カツ屋に行くと「いつからやるんや!?」と煽られる。そこで試作を常連に食べてもらった後に「もう1発パンチほしいですよね?」と聞くと「確かにね!」と返ってくる。

 何をやれば良い?どう弾ければ良い?完全に思索の森に迷い込んだ私は中毒者が多いと言われる某ラーメン屋に行って気を紛らわせることにした。

「ここのはすごいな。味、インパクト、中毒性。めっちゃあるわ。。。あ!ヤサイニンニクアブラ!」

 アブラ?

 目の前には山のような野菜の上に乳白色の邪悪な脂が乗っている。私はこのラーメンが好きで数十キロ太った。脂は白い湯気の中で存在感を増していき、青い炎を纏ったかのように見えた。

「パンチか。。。」

 とりあえずガンガン食べる。ロットを乱さぬように。炎よ私に燃え移れと念じながら。


~続く~

ビヨヨーン!これは有料コンテンツだけど全部見られるようにしてるよ!

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?