間借りカレー地獄変~8~オミセノハナシハシンジルナ

 プレオープンの状態では絶対にうまくいかない。来てくれた人は全員が知人なので待たせてもなんとかなったが、実戦は違う。待たせる、注文を間違える、発狂して全裸絶叫をするなどがあればただちにレビューサイトで「このお店は行かないほうが良い。店主が全裸絶叫with高枝切り鋏をしていて別の意味で大久保名物です!」などと書かれるに違いない。書かれた場合には下手人を探し出して車輪轢きだ。ただでさえオープンまで半月近くしかないのに車輪を作っている暇はない。そのためにもスムーズに店舗行為ができるタクティクスが必要なのだ。しかしなぜるろうに剣心のエンディングテーマはイエモンのタクティクスだったのだろうか?それは、誰も、知らない。

「もう信じねえ!誰も何も信じねえ!俺は店主であるってことも信じねえ!もっと高次元の存在だ!」

 近づく生物を全て塩にしたガールと化した店主ではあったが、ラーメン二郎川越店の汁なし麺3分の1を食い終わり自宅でゼロコーラを飲みながらダラダラしていたら気が変わってきた。
 そもそも前提が違うのだ。オーナーは自分の店で13年程店舗運営をしている。その中で最適化された形があり、その形に対して文句をいうのは間違っているのだ。私は借りている立場。さらにオーナーの好意で最初の一ヶ月は無料でやらせていただくことになった。そんな状態なのでこちらからの希望などを言うのもはばかられる。いや、商売なのだから自分からガンガン物を言い、ベストの形を作るのが正解かもしれないが、それができないから間借りカレーをはじめるのである。それに、色々と足りない状態、予想がつかないことが起きる状況で物事を進める方が経験値が貯まるに決まっている。プレオープンの時、米が切れかけたならば鍋で炊けば早いし炊飯器のつなぎになるとも感じた。そんな不便を乗り越えてレベルアップするのが正しいことではないのか?

 とりあえず考えた。何をどうすれば店に迷惑を掛けずに自分がストレスなくまわしていくことができるのか。店には自分の道具を置くスペースとでかいプレスチックの箱をもらった。だったらもうそこに全て収まる程度の荷物だけ置き、必要最小限での行動をすれば良いのではとの結論になった。

「何がどこに置いてある、アレがこれだけ使える。そういうのはオーナーも営業があるので毎日違ってくる。ならば必ず使う道具は全てもうワンセット自分用に用意しておこう」

 鍋、包丁、まな板、スポンジ、スプーンなどの什器はプレオープンから分けていた。それにこういうでかいブツは毎日使うので置いてある場所も変わらないしなくすこともない。絶対になくすやつ、そしてないとマジで困るやつ、さらにすぐに安く買いに行けない物を自分用に買おう。
・計量スプーン
・計量カップ
・デジタル計量器
・缶切り
・米とぎ用のザルとボウル
 とりあえずこれは買う。ほかにも細々と買った物はあるが、ほとんどが「誰もが流れで使うから置き場所が定まっていない道具」だ。自分は使ったものを必ず同じところにしまうタイプだが、オーナーは違う。それを正すのは傲慢であり罪。借りている人間がスタイルを押し付けるなんてとんでもねえ。
 今は間借りでの営業になるが、未来は実店舗を持つことになるかもしれない。そんな時に誰かの力を借りることが出来るだろうか?それどころか、自分のやり方が正しいなんて信じられるだろうか?だったら今から全部を疑って、誰の力も借りないと決めてやっていくのが一番の正解な気がする。この思いは不遜ではなく覚悟だ。自分が好き勝手に生きてきて、一人でやっていくのだ。だからその覚悟が必要なのだ。もちろん自分だけの力でやれるとは思っていない。今もお店を貸してくれるオーナー、行くよと声を掛けてくれた友人など多くの人の力を借りている。だからこその覚悟なのだ。何か問題が起きた時、飲食店なのでその中で起こるアクシデント以外にも機材、設備面でのアクシデント、何かがあった時に「これは全て自分の責任である」とするのが間借りをやる時に一番の忠義なのではないか?そう思ったならそうやるべきで、そう行動をしていきたい。

 人の力を借りるってことは何かがあると支えてくれた人への恨みも持ってしまう。そんなことにはならないようにしよう。それが気持ちよくやっていくための必須感情だ。

 とりあえず諸々の準備は終わった。残り少ない社会人生活を楽しみながらお店のユニフォームにしたいと考えているあの服屋に行こう。店をやると決めてから毎日が早く過ぎていく。オープンしたらどうなるだろうか。せめて、せめて楽しくあってくれ。。。

~続~

ハッピーニューイヤー!おとしだま!く~ださい!なんてね!今年もカリーザハードコアはがんばるで!シクヨロちゃんや!

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