間借りカレー地獄変~2~

「そんなんうちでやったらええやん」

 店舗が確定してしまった。現在は2019年9月。メニューなんて決まっていない。ただ、場だけは先に決まってしまったのだ。26歳から通い続けていた串カツ屋に。

「いやいやいや、まだやるかどうかも決めていなくて」

「やった方がええ。来月からにするか?」

 人生はゆっくり進めるに限る。人生を高速で動かすと胃袋に落ちた牛ヒレ串とビールが良くない混ざり方をして体調どころかこの地球さえ粉砕しかねない。過去、二度地球を粉砕した。この物語は事実である。

 飲食店をやるには3つ道があると考えていた。1つはこれまでもちょくちょくやっていたイベント形式の店、2つ目はどこかの飲食店の軒先を借りての営業、3つ目は自分で店を出す。
 まず3つ目は不可能である。マネーがないズラ~!ないんズラよォ~!お銭(おぜぜ)をおくんなまし~!バカヤロー!心は錦!!
 飲食店を開業しようにも場所にもよるが数百万円かかる。それに地回りの暴力団員にマネーを配ったりしないと駄目なんでしょ?おしぼりとか観葉植物買ったりとか。

「いつの時代やねん!」

 串カツ屋の大将は笑い飛ばす。では店頭の今にも走馬灯のエンドロールが見えそうなゴミみたいな観葉植物は一体。。。
 さて、諸々は冗談にしてもマネーがないのだ。だからリームー。

 では1つ目はどうだろうか?これはやってきた経験もあるし可能である。イベント先によって厨房設備は違うが二口のコンロがあれば調理はできる。ないのならカセットコンロでも買えば良い。そしてなによりマネーがかからない。その瞬間の時間代金などを渡せば良い。それが稼げない程の集客ならば泣き落としでなんとかなるかもしれない。
 しかし問題がある。イベント営業ということは普通の仕事をした上での営業になる。では現在の状態。無職!無職じゃねえよふざけんな!フリーランスだ!フリーでDTPの仕事やライティングをやっとるわ!やっすいやっすい仕事や!無理やり起きてチョコレートをシャブみたいに喰らいながらやっとるんだよ?あまり笑わないでくれまいか?

 結論、2しかねえ!これなら店舗を仕事としてやっていけるし、営業日も多いからなんとか生きていける。なんだよ、人生なんとか成子坂。
 しかし今は9月。いつからやるのか?どんなカレーを出すのかも決めていない。いや、むしろ本当にやるのか?やって生きていけるのか?今やっている仕事はDTPに関しては所謂派遣社員と同じくらいの給料をもらえている。ライター業も数にはよるが合わせると22万円ほどの収入だ。39歳にもなるのに22万で賞与もなしって!それにフリーランスだから保証もなしって!世界は闇に閉ざされしゃれこうべだけが微笑んでいる。ダメだぞッ。

 まず冷静に考えよう。飲食、それも間借りカレーなんて儲かるどころか楽しいのか?儲からないのは十年以上の声優生活で慣れている。せめて、せめて楽しくあってくれ。私はインターネットのキャラ付けとしてディズニーランドを心から憎んでいる。なので一度も行ったことがない。ウソ、本当は小さい時に一回行った。そんなディズニーランドくらい楽しくあってくれよ。こんな人生踊れないじゃないか。

 まあ仕事もつまんねーし軽く考えてやってみるか!失敗したら逃亡じゃ!タイで数年遊んでモルジブで消える!

 人生はポップ。とりあえずやってやりゃあ良いでゴワスよ。いきなり週5とかでやんねーし、ダメそうだったら即逃亡。俺は人生に背中ばかり向けてきた。だけども背中で語るのが人生。私は間違っていない。何一つ間違っていない。唯一の間違いはこの世界に生まれ落ちたことだ!デデーン!
 しかし情報収集は大切だ。なので人生の先輩でバーをやっている人に飲食のお話を聞きに行こう。私は行動できる人間だ、価値ある人間だと思いながらテクテクゴートー新宿区。

「かくかくしかじかで間借りカレーやりたいんすよ」

「えー?店主ちゃんやめときなよ~。店主ちゃんなら絶対に水商売の方がいいよ~」

「え、あ、なぜでしょうか?」

「しゃべるの上手だし、芸能時代からのお客さんも持ってるんでしょ?飯屋なんて儲からないに決まってるって」

 ザ・全否定。しかしなんだこれは。私は決して安くはない料金で飲みたくもねえウーロンハイを飲んでいる。なのにいきなりコレ?いや、本音を話してくれているんだ。だからしっかりと聞かねばならんだろう。でもヨオ!俺は甘やかされねえと死ぬんだよ!三男坊をナメんじゃねェ!
 ブチギレて新宿疾走。うまくもねえ牛肉麵をかき込んで「自分の店を出すまでは二度と行かねえファックユー」と夜空に向かって絶叫することで自我を保ち、酒で崩壊した精神を引きずりながらリターンバック川越シティー。小江戸川越?シャレとんなあ!二郎と大勝軒しか用事あるかボケェ!

 そうだ、まずはやるやらないよりメニュー。メニューを考えねば。私はどんなカレーが好きなのだろうか?深く深く考えると絶望した。全部好きなのだ。マジで全部。インネパもうまいしファストフードもうまい。だが思い出せ。記憶の底から。どんなカレーに感動した?どんな料理に感動した?まずはそこからだ。あるぞ、あったぞ割とすぐ見つかった。なぜか?声優をやっている時「頭の中で声を出してしゃべる時は5倍速でしゃべれ。口を動かすわけじゃないんだから出来るし答えが出るまでが早くなる」と言われていたからだ。ごめん。ウソです。衝撃を受けた店があったからですわ!

 パキスタンカレーの名店だった。そこのマトンカラヒを食べた時、アニメ版ミスター味っ子のように富士山は噴火するわジェイソンステイサムは吹き飛ぶは大変だった。マトンカラヒ頼んだあとにマトンカラヒ頼んで軍人みたいな店員に「オナジノデスガ??」とメンチを切られた。「美味しかったから。。。」というと「ハイ」と表情を変えることなく注文を取った。そう、あの店だ。OK、私のカレールーツはパキスタンカレーなのだ。だからそんなのを作ろう。ならば実行!

 インターネットレシピやyoutubeを見ながらパキスタン風のカレーを作成して食べてみた。自分で言うのもアレだがハチャメチャに美味しかった。しかし、しかしだ。コレで良いのか?良いはずがない。カレーは作ってきたとはいえ付け焼き刃のパキスタンカレーで銭なんて取れるはずがない。違うだろ。イベントでカレーを出したりしていた時はもっと自由にやっていた。そう、自由だ。飲食店は今までの生活と全く違う。キルしたい上司もいなければデッドしてほしい同僚もいない。自分だけがあるのだ。天上天下唯我独尊。絶対に使い方は違うが気分としてはそうなのだ。
 「美味しいカレーを作ろう」と考えいたが違うのではないか?美味しいは人による。そもそもカレーが嫌いな人も結構な数を見てきた。美味しいは魔境。全員違う。だが、1つしかない物、1つしかない思いが世界にはあるはずだ。俺はそれを知っている。俺は声優時代何をやってきた?バンド時代何をやってきた?人生30年以上何をやってきた?そう、好きなことをやってきたんだ。

「めんどくせえ!好きな物を全部叩き込め!」

 デデーン!パキスタン風カレーにハンバーグを合わせる原型が完成!

 しかし、この直後にメニューの根幹を揺るがす大事件が発生するのだがそれはまた後日。。。

~続く~

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