![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/104454089/rectangle_large_type_2_3e57aece0d2ccaf9df5ac9d150c44f0b.png?width=800)
Photo by
kinaco_kuromitsu
心お弁当 ♯毎週ショートショートnote
「そうですか、そんなことがあったんですね」
メールだけでは不足を感じ、実際に会って話を聞いた。客の男性は50歳前後だろう。
「生きている間に親孝行出来ず、今はとても後悔をしています」
男はそう言って涙を流した。
客の話に感情移入はしない。共感は出来ても、その人にはなれない。話をよく聞き、何を伝えようとしているのか、それを探ることに集中する。それが店主のルールだ。
面談は1時間半程で終了した。
「また来週いらしてください」
店主がそう言うと、男は頭を下げ、店を出た。
メールと面談の情報を元に、素材を選び始める。レシピの完成にかかる期間は、概ね3〜4日。
「あなた専用のお弁当」というコンセプトで、自宅を改築し、半分趣味で始めた店だったが、気がつけば人生相談の相手をすることが増えた。
『心お弁当』
そんな言葉が口コミで広まり、予約は既に一年先まで埋まっている。価格は1000円。変えるつもりはない。
男から感謝の手紙が届いたが、店主は封を開けず、専用の棚にしまった。
それもまた、店主のルールである。
↓こちらに参加♪
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?