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心お弁当 ♯毎週ショートショートnote

「そうですか、そんなことがあったんですね」

メールだけでは不足を感じ、実際に会って話を聞いた。客の男性は50歳前後だろう。

「生きている間に親孝行出来ず、今はとても後悔をしています」

男はそう言って涙を流した。

客の話に感情移入はしない。共感は出来ても、その人にはなれない。話をよく聞き、何を伝えようとしているのか、それを探ることに集中する。それが店主のルールだ。

面談は1時間半程で終了した。
「また来週いらしてください」
店主がそう言うと、男は頭を下げ、店を出た。

メールと面談の情報を元に、素材を選び始める。レシピの完成にかかる期間は、概ね3〜4日。

「あなた専用のお弁当」というコンセプトで、自宅を改築し、半分趣味で始めた店だったが、気がつけば人生相談の相手をすることが増えた。

『心お弁当』

そんな言葉が口コミで広まり、予約は既に一年先まで埋まっている。価格は1000円。変えるつもりはない。

男から感謝の手紙が届いたが、店主は封を開けず、専用の棚にしまった。

それもまた、店主のルールである。

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