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愛は犬に。 #シロクマ文芸部

『愛は犬に、金は人間に』

西暦1194年。当時内戦状態にあった、独裁国家ゲルメニアの総統ドルゴ・バラドスが、国民を鼓舞すべく放った言葉である。

他国からの支援を得て勢いづく革命軍アカに対し、ゲルメニア国軍は劣勢に立たされていた。

既に大勢は決していたが、バラドスはアカからの停戦の要求を一切受け入れず、全ての国民へ向けた演説を行った。

「我が国の勝利は目前である。我がゲルメニアは未来永劫ゲルメニアであり、世界の覇権を握る国家である。今国民がすべきことは、愛などという生温い感情は棄て、犬にでも喰わせてやり、目前の敵を駆逐することだ。そして勝利の暁には、国民全員に報奨金を与える。豊かな暮らしをするに十分な金を、全ての国民に与えよう。誇るべきゲルメニアの家族達よ、ゲルメニアを穢す蛮族に、正義の鉄槌を振り下ろすのだ」

この演説の後、国民の心は真っ二つに分裂した。既に洗脳状態にあった半数の国民と、戦況に対して冷静だった国民との間に、分断を促す結果となった。

演説から1年を待たずして、ゲルメニアの首都ゲルムは革命軍に制圧され、バラドスは民衆の前で処刑された。

そして『愛は犬に、金は人間に』の語源となった演説は、人間の愚かさを象徴する演説として、旧ゲルメニア、現ヴァロッツ共和国の教科書の背表紙に掲載され続けている。

なお、この話は全てウソである。

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