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マリリンと僕

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小説『マリリンと僕』をまとめました。
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#短編小説

マリリンと僕32 〜包み込むように〜

マリリンと僕32 〜包み込むように〜

『恋する教室』3話目あらすじ
放課後、学校近くの公園に影山と優麻が一緒いるのを目撃してしまった三原。疑念と不信を募らせた三原は月野に相談を持ちかける。元々月野に交換を抱いていた三原は、話をしている間にその想いを高めていくのだった。  

「お忙しいのに時間を作って頂いてごめんなさい。撮影の方は如何ですか」
撮影後、ホテル内のバーで山村さんと会った。名目上は取材だから、事務所から疑われることもない。

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マリリンと僕31 〜幸運の女神様〜

マリリンと僕31 〜幸運の女神様〜

「ちょっと話があるんですけど…」
僕はそう切り出して、ディレクターの武内さんにマリリンのことを説明した。
「月野君の紹介なら、エキストラとかなら考えられるけど。一応どんな子なのか教えてもらえる?」
内心断ってほしかったのだが、すんなり話が通りそうだったので、マリリンが個性的な子であること細かく説明し、断られるように仕向けた。
「めちゃくちゃ面白いじゃん。このドラマもコメディだからね。ちょっと会って

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マリリンと僕30 〜恋にも演技力は必要か〜

マリリンと僕30 〜恋にも演技力は必要か〜

「よ、よう…たさん、何してるんですか」
自分でもハッキリとした理由はわからないが、自然と体が動き、萱森さんを抱きしめていた。
「わかりません」
「わかりませんって…、あの、この状態でわかりませんって言われてるアタシはどうすれば良いんですか」
「えっと…嫌…ですか」
「んー、悪くはないです。悪くないし、嫌でもないんですよ。むしろ胸キュンシチュエーションですよ。だからこそ、『わからない』は最悪なんです

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マリリンと僕29 〜不自然な自然体〜

マリリンと僕29 〜不自然な自然体〜

ドラマの撮影が始まると、それは予想以上に目まぐるしい日々だった。

スケジュールは事前にもらっているし、萱森さんもこまめに連絡をくれるが、時間も早朝撮影や頻繁に調整が入り、合間に急な取材が入ることも多かった。

僕は取材が苦手だったから、山村さんと会った時にどんな話をするのが良いのかを聞いた。小さな出版社に勤務する山村さんは、インタビューする方のプロなのだ。

「そんなに深く考えずに、聞かれたこと

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マリリンと僕28 〜悩める2人〜

マリリンと僕28 〜悩める2人〜

立春も過ぎ、少しずつ陽も長くなり始めた2月の下旬。僕はいつもの公園にいた。

ここしばらくは慣れないことの連続だった。主要キャストということでドラマ関係の取材を受けるが、まだ顔合わせと台本の読み合わせだけで、実際に撮り始めてもいない。それもわかった上での定型的なインタビューだから、質問も無難な内容に終始した。正直なところ、こんな内容の無いインタビューを読んで楽しいのだろうかと甚だ疑問だった。

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マリリンと僕27 〜戸惑いの季節〜

マリリンと僕27 〜戸惑いの季節〜

「おはようございます」

僕は結局眠るのを諦め、6時過ぎにはベッドを抜け出し、萱森さんが仕事に行く前に簡単に食べれるよう、サンドウィッチを作っておいた。具は茹で卵をほぐしてマヨネーズで和えた物とツナサラダ。冷蔵庫にあった、有り合わせの具材だ。

7時を知らせるアラームが鳴る頃には、外もすっかり明るくなっていた。無防備な寝顔は小動物を見ているようで飽きなかったが、仕事があると言っていたから、このまま

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マリリンと僕26 〜ラブストーリーは突然に?〜

マリリンと僕26 〜ラブストーリーは突然に?〜

タクシーの運転手の協力もあり、泥酔した萱森さんをなんとか部屋に運び込むことは出来た。しかしまだ、玄関で倒れたまま、全く起きる気配はない。気を失っているわけではなく、純粋に、酔って熟睡しているのだ。

普段の扱いを思うと、玄関に起きるまで放置しておこうかとも考えたが、かろうじて思い直した。引きずって部屋まで運ぶのはさすがに申し訳ない。そうなると、必然的にお姫様抱っこしか選択肢は無くなった。

「ふっ

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マリリンと僕24 〜風に吹かれて〜

マリリンと僕24 〜風に吹かれて〜

山村さんから電話があってから2日後の朝、僕はホテルのベッドの上にいた。横には裸の山村さんが寝ている。僕もやはり、裸だ。

自分でも状況がつかめず、昨日のことを思い出そうとしたが、何か考えようとすると脳に鋭い刺激が走り、思考が強制停止させられた。どうやら二日酔いということだろう。

少しずつ断片を繋いで、記憶を辿る。

2日前、菅原と会った後に山村さんから着信があった。マリリンの出て来た夢が脳裏をよ

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マリリンと僕23 〜夢の中のマリリン〜

マリリンと僕23 〜夢の中のマリリン〜

まだ陽が昇り始めていない午前5時頃、ふと目を覚ますと、既に絵莉の姿は無かった。そして、テーブルの上には千切ったメモ用紙が置いてある。“ドラマ、がんばろうね”とだけ書かれていた。

一か月前に会った時と同じようで、その実全く状況は変わっていた。ドラマの話をもらえたこともそうだけど、まさか絵莉と共演することになるとは思わなかった。

絵莉は僕から“幸運のお裾分け”をしてもらったと本気で思っているのだろ

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マリリンと僕22 〜定まらない体と心〜

マリリンと僕22 〜定まらない体と心〜

萱森さんからの電話で急いで自宅アパートに向かうと、萱森さんと一緒にいたのは元カノの絵莉だった。

まさか僕らの関係性まで話してはいないだろうなとか、そもそも絵莉はどこまで知ってここに来ているのだろうかとか、正常に機能していない思考をぐるぐると空回りさせながら、出来る限り動揺を隠して二人に声を掛けた。

「ごめんなさい、お待たせしました」
ひとまず待たせてしまったことを詫びた。
「遅いですよー。毎回

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マリリンと僕21 〜再会は唐突に〜

マリリンと僕21 〜再会は唐突に〜

台本をもらったその日の夜から、台詞覚えを始めた。まずは全員分の台詞を通して読み、ストーリーの全体像を捉え、それから自分の役の台詞を頭に入れる。その段階では役のイメージを作らずに、一旦声に出して台詞を覚え、スムーズに言うことを心掛ける。台詞をだんだんと体に馴染ませて、それから自分なりに作った役のイメージに変換し、感情も入れて行く。

普段ならト書きを読み、相手役のイメージを膨らませながら役作りをして

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マリリンと僕 20 〜don't think.Feel.〜

マリリンと僕 20 〜don't think.Feel.〜

翌日、僕は阿佐ヶ谷でランチをしていた。正面に座っているのは山村さんだ。さんざマリリンに注意してもらったのに、午前中の電話で「仕事だし」ということで会う約束をしてしまった。

山村さんは今日も20分程遅刻をして、阿佐ヶ谷駅の階段を猛ダッシュで駆け降りて来た。冬なのに汗だくで、ハァハァと息を切らしている。そんなに焦らなくてもと思いつつ、見た目の綺麗さと行動のギャップに、可愛い気を感じてしまう。白いニッ

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マリリンと僕19 〜転がる石のように〜

マリリンと僕19 〜転がる石のように〜

マリリンは、どう話せば良いのかと、少し考えてから話を始めた。

「んとなぁ、兄ちゃんなんとなくわかってるかも知れへんけど、オカンて、ばあちゃんと全然似てへんやん」
マリリンの母、真里亜さんはモデルのようなスラっとした美人(今風に言えば美魔女とでも言うのか)で、祖母の真里子さんはマリリンにそのまま加齢したような、服装まで含めて“奇抜”と言う表現がしっくり来る、ずんぐりむっくりな個性的な女性だ。

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マリリンと僕18 〜人は時に鬼と化す〜

マリリンと僕18 〜人は時に鬼と化す〜

オーディションの日から1週間が経過した。
しかし、未だ音沙汰は無い。念の為に萱森さんに確認をしたが、「普通に考えたら春からのドラマの主演を今頃選んでるのが遅過ぎるぐらいなんで、そんなに選考に時間掛けないと思うんですけど。でも、今んとこ連絡無いですね」ということだった。

そして今日は、初めてインタビューを受けることになっている。「舞台も予定無いんですから、何か仕事しましょう」と言って、萱森さんが仕

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