フィルモア通信 New York No11 マーサとジョージワシントンの亀のスープ
ヴァレンタインデーのメニューはアメリカの歴史上の有名人の恋人たちが愛した食べ物をとレンがアイデアを出してきた。ジョージ・ワシントンは妻マーサのために彼女の好物であった亀のスープを作ったとレンは話し、これをメニューに載せようということになった。
ぼくはその亀というのはウミガメじゃないの、と訊いてみたがウミガメは保護しなければいけない動物で食材じゃないと、みんなは言った。
「普通のタートルだよ、チャイナタウンで売ってる奴」とピーターが言うとディナークルーの他のみんなもぼくを見た。
空手をやってるフレディが頭を下げて「センセイ オネガイシマス」と言ってきたので、
「ぼくはインペリアルシティキョートのブッディストスクールで蚊も殺してはいけないと教育された」とみんなに告げた。もし、タートルを料理するなら教会にお参りに行ったほうが良いよ、と付け加えた。
それでピーターとフレディがチャイナタウンにタートルを買いに行くことになった。
ヴァレンタインデーの当日キッチンに入ると、ピーター、フレディ、レンが大型のパン捏ね機やミキシングマシーンが並ぶプレップテーブルを取り囲んでいた。チャイナタウンのどの店でも亀を殺してカットするのは断られたらしかった。
テーブルの上には10インチを超えるほどのタートルが手足を引っ込めていた。首のあるあたりが傷だらけだった。フレディは両手で中華包丁を頭の上にかざしていて、どうやらタートルが頭を出すところを狙って打ち首にするたくらみがもう三十分ほども続いているらしかった。
ぼくはジューイッシュのピーターとレンに教会にお参りしたかときいたが、ノーと言った。みんなは疲れた目でぼくを見た。いよいよ期待の地平に応えなければならないと思い、ぼくは意を決してタートルを裏返して首を出したところをカットした。
あとはスッポンと同じように下ごしらえを終わり、ピーターにお参りにいったほうがいいよと言った。
そのタートルは料理するとあまり肉はなく、スープは泥臭かった。その夜、結局マーサとジョージの愛のスープをオーダーする客は無かった。
そして、ディナーの終わりころデザートを作るジョンがダウンステアーからやって来てタートルをさばいたテーブルの横のパン捏ね機がなぜだか動かなくなった、と告げた。ぼくはレンに教会に行った方がいいのでは、と言うと、Tomorrowとレンは答えた。
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