「精神科長期入院よさようなら」を読んで
私は精神科で働いて長いですが、そのほとんどが長期入院の人がいる療養病棟です。最初、入院期間がそんなに長くなる人がいるなんて思ってもいませんでしたが、もう人生の大半を病院で過ごしている人がたくさんいることに本当に驚きました。
病院ってそんなに居心地が良いのでしょうか。退院して自由に暮らした方がいいのにと思いますが、実際問題、患者さんはそれほど退院を望んではいません。過去に起こした家族との軋轢で「もう病院から出てくるな」と言われて入院している人もいます。家族にとっては病院は一生預かってくれる場所、もう顔を見なくても良い場所になっていることもあります。
この本を読んで、入院期間が長い患者をどのように退院に導いたか、その苦悩が書かれています。
ただしこの本を読めば明日から長期入院患者がいなくなるというわけではありません。本に書かれている事例も、年単位での実例が書かれているんです。でもそこには、スタッフの意識の変化、家族の患者さんに対する考え方の変化が書かれています。その変化はゆっくりですが、それでも退院に向かおうとする患者さんの変化がありました。
私自身、この4月からスーパー救急病棟から開放病棟に異動となりましたが、同時に病棟師長も異動になりました。そしたらいままで入退院のなかった病棟が、どんどんと退院を出していったのです。これは師長の退院を目指そうとする姿勢を我々スタッフも感じて、がんばって退院を支援している結果だと思います。本にも書かれていますが、長期入院患者さんは病院にとっては良いお客様で、経済的な安定となります。しかし、今度は急性期病棟からの患者さんの受け入れができなくなります。それでは全体が回らなくなります。
今の時代は患者さんを家族のもとに返すわけではなく、必要な社会資源を組み合わせます。「うちに帰ってきては困ります!」なんて言う家族にも、きっと納得できる退院先があると思います。
先述しましたが、読めば退院が進むというものではありません。けど、退院に向けての知識が身につきます。病棟師長レベルの管理者にぜひ読んでいただき、スタッフの意識の変革も望めると思います。大変勉強になる一冊でした。
またこの本のイラストを書かれたみおなりんさん。イラストの雰囲気がとても良く、このゆるふわなイラストがいたるところでよいスパイスとなっていました。精神科の雰囲気がよく伝わるイラストになっています。
ぜひご一読ください。
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