「人手不足倒産」を防げ

東京商工リサーチによる集計によると、昨年(2019年)の倒産件数(負債総額1000万円以上)は8,383件。前年比で1.8%増加とのこと。

特筆すべきは、倒産理由。人手不足による倒産が過去最多の426件(前年比10.1%増)となったそうだ。

人手不足には従業員等の「働き手」不足ももちろんだが、後継者不足によるところも大きい。これらの大まかな原因は少子化に求めることができるだろうが、消費税の増税や災害の増加などが追い討ちをかけている側面も否めないだろう。

求ム!?働き手!

この人手不足というのは何も今に始まった話では決してない。数年前から少子化・高齢化による労働力人口の捻じれの拡大に基づいて予測されてきたし、実際にその通りに進みつつある。

最新の統計でも年間の出生数が100万人を下回っており、今後も少子化・高齢化・人口減少というのは避けようがない。緩やかに、そして確実に日本は衰退しつつあるのが現実だ。

しかし、手をこまねいている場合ではない。現に、人手不足倒産は増加しておりこのままでは今後も加速していくことが用意に予想されるからだ。

厚労省によると、2018年度の新規求職申込件数は「4,735,538」件。2019年度の統計はまだ待つしかないため2018年度の数字で代用するが、年間で470万人以上が仕事を探していたことになる。

これらは新規学卒者を除いている数字となる。また、ハローワークを利用せずに転職活動をしている人も一定以上いるため、実際には仕事を探している人口はさらに多い。

少なくとも市場に470万人以上「働きたい」という声が溢れているのに人手不足による倒産が発生するというのは由々しき事態ではないだろうか。

今後労働力人口が減少するのは間違いないため、益々人材の「争奪戦」は激化するだろう。そうなった時、ネームバリューに劣る中堅以下の企業はより人材確保に苦戦することになる。

そうならないためにも、「働きたい人」はいるのに「人手不足」が発生しているという原因を考察していくしかないだろう。

繰り返しになるが、日本には求職者が沢山いる。働き手が欲しい企業も沢山ある。しかし、何かがどこかでズレているために、「人手不足」が発生し、それが慢性化することで倒産を余儀なくされている企業が出てきている。

取るべき方策はいくつかあるだろうが、代表的なものについて考察してみたい。

●採用の見直し

●活用できる労働力の発掘

●社内環境の見直し

一つずつ考えてみよう。

採用の見直し

人手不足なら「採用」。これが一番わかりやすいし即効性もあるだろう。

残念ながら、『ハローワークに求人を出せば人が来る』ような時代はとうの昔の話であって、一工夫も二工夫もしなければそもそも応募件数すらまともに確保できないケースは多い。

採用ターゲットの見直しから、ターゲットに見合ったアプローチ方法。競合他社との条件面の比較など細かく見直さなければ「見向きもされない」ケースは決して他人事ではない。

特に、昨今の働き方改革の波に乗り遅れた企業は採用難に直面していくだろう。「人手不足」と言っている業種がある程度固定化されており、なおかつそういう業界はすでに悪評が先行してしまっている。

企業単位ではなく業界単位で求職者に敬遠されているケースは決して看過できない社会問題となっている。

また、中小零細企業においては大企業とは別の方策での採用を行っていかない限り勝ち目はない。そもそもアプローチできる人数に大きな差があるため、ブランディング手法なども大手の「真似」では太刀打ちできない。

ある意味、採用広告を出す前から結果が見えてしまう戦いで疲弊しているのが不人気業界や中小企業の現状でもある。

採用手法についての細かい部分は拙著の別コラムに譲るとして、まずは採用手法の総点検と見直しを人手不足解消に一案として挙げておく。

活用できる労働力の発掘

政府は人手不足解消のため「外国人労働力」の受け入れに舵を切った。

労働力の確保という意味合いでは短期的な効果は期待できるだろう。しかし、外国人がそのまま日本に定住するならともかく、短期的な「出稼ぎ」で来るだけならあまり効果的な解決策とはなり得ないだろう。

また、既に外国人実習生に対する目に余るような待遇で制度そのものの評判も芳しくない。外国人に頼るという姿勢がどこまで通用するかは非常に疑問符がつく。

となると、日本の中に潜在的に活用できる労働力を発掘していくしかないだろう。

鍵となるのは「女性」や「障碍者」だ。

結婚を機に家庭に入った女性やそもそも働きたいのに活躍の場を得られなかった障碍者などの労働力を活用していくことも急務だろう。

インターネットの発達でリモートワークなど在宅での活動に対する活動もかつてに比べれば大いに簡単になった時代である。また、業務の切り出し方を工夫すれば働いてもらう環境はどうとでも作り出せる。

何も潜在的労働力を活用するために「全く新しい仕事」を作り出す必要はない。既存の業務を「どのようにやってもらうか」を考えるだけで間口は大きく広がる。

そういう意味では、前項の「採用手法」におけるターゲットの見直しという意味にも繋がるのはご理解いただけるだろうか。

社内環境の見直し

「採用の見直し」や「活用できる労働力の発掘」は比較的取り掛かりやすく即効性も期待できる部類である。しかし、前提となるのは「社内環境の見直し」だ。

新しい労働力を発掘し、採用に成功したところですぐに退職されては全く意味がない。かなりしんどい工程になるが、社内環境・職場環境は大胆に見直していくことをオススメする。

そもそも、採用というのは小手先のテクニックで何とかなる部分もある。

しかし、定着となると小手先のテクニックでは全くどうにもならない。これまでの定着率が芳しくないようであれば尚更だ。

採用⇒戦力化⇒定着というステップの間にいくつもの落とし穴が待っており、本当に定年まで定着してもらうには相当な苦労が必要となってくる。

人事管理においては全般的に言えることだが、「昔はこれでよかった」というのは一切通用しない。これだけ社会の変化が速い中、「これまでのやり方」に固執するのはリスキーの一言だ。

残業の具合や業務量の見直し、休日休暇、給与体系、評価システム、昇進制度、教育制度、モチベーションの向上施策などなどありとあらゆる項目を様々な企業と常に比較されているという自覚をもっていかないとなかなか人は定着しないだろう。

なぜここまで定着にこだわるかと言えば、「穴の開いたバケツにいくら水を注いでも無意味」だからだ。

どれだけ採用で成果を上げても、みんな辞めていくならばその努力は無意味ということになる。

人手不足という現象を解決するためには、ありとあらゆる視点・観点から人材に「来てもらう」「定着してもらう」方策を講じなければいけない。

『余裕がない』は「人手不足」への片道切符

もちろん、いきなりすべてを行うことは既に人手不足で困っている企業からすれば無理からぬ話だろう。

そういう点では同情する余地もある。

しかし、『余裕がない』で状況を放置していればあっという間に「人手不足」は深刻化していく。気がつけば何から手を付けていけばいいのか・・・という事態になってしまえば、人手不足倒産へまっしぐらとなりかねない。

できればコンサルタントなど第三者を交えて一度問題点を洗い出して整理・実行することが望ましい。「自社のことは自分が一番わかる」と思っている経営者も多いが、外部の目線や観点は非常に有意義だ。

もちろん、当社も支援している。採用以外の人事管理全般について対応しているので、お気軽に相談をいただければと思う。

しかし、もちろん当社で支援できることにも限りがある。

少なくともこの記事を読んだ経営者・人事や総務の責任者が一度社内の見直しをするきっかけにでもなれば幸いだ。

「人手不足」で倒産するというのは何とも悲しい話ではないか。

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