祈り
紺碧の暮れへと昇っていく、冷たいガードレールへ右手を載せて、うんと遠くで滴った、ホタルの光の死骸をすくう。
ひんやりとした葉擦れの音が、かすかに軋んでいる空気と戯れながら、肌に残った蒼白を、押しつぶそうと迫ってきて。
靴底で、細かくなっていく落ち葉。
下をゆく穏やかな川波は墨色で、虫の胸部が膨らむたびに、甲高い呼吸が、水に呑まれてやってくる。
手を離し、親指と人差し指を擦り合わせたら、粉でざらつきえずく指頭。
裾で拭き、胸の前で手を合わせて。指を絡ませたら、伸ばした髪に関節をくすぐられた。
仰向けば、昼を吸った月白の目玉が、まばたきもせずになにかを見つめて。
うつむけば、はねる水。目線を上げれば、木々の腕に抱かれた宵が、いつもみたく、息してる。
まぶたを閉じた。自然と手に力が入って。あごが下がっていく。
鼻息の震えが、かゆみの遊んでいる肌を覆って。
ただじっと、立ち続ける。
口ずさみ、瞳を開けば、言葉の白んでいくのが見えた。
(了)
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