秋生まれ

 開かれた窓の向こうの、薄い青空に垂れ下がった秋風を眼でもげば、夏の死臭が漂って。握れば潰れてしまいそうな、輪郭のぼやけた太陽は、落ちた果実のように腐っていて。なのにこの身は腐敗せず、今もなお、冷たい汗を滴らせています。

 なぜこの青い肉は燃えないんでしょうか。

 視線を戻せば、キーボードの白い文字にくちづけをしていく十の指頭が、色のない響きを蹴って、弾かせて。ファイルのなかの資料が、隣でさらさら、滑っていきます。紙の血の、流れていく音。向かいの席では、ハンコがつかれて、つかれて。どこかでボールペンが、床へと吸われていきました。

 手を止めて、窓外を再び眺めたら、秋生まれのせいだということに気がつきました。秋生まれだから、だから色が悪いんだと。薄白い秋空の底に沈み落とされたから、肌が青いんだと。

 色づくことも、焼け焦げることも、凍ることさえ敵わないのなら、空に投げ込まれる前のあの一瞬間に還りたいと、契約書を作りながら思うんです。決して破棄することの許されない、気づけば結ばされていた蒼い契りを、胸に抱えながら。

                               (了)

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