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伊藤緑
2020年6月5日 18:21
何をも持たず、何をもできず。己を呪いながら、それでも息を。 そんな小さき人に、わたしは会いたい。 土を嗅ぎ、緑を吸って雨を浴び、大気に包まれる。そんな一瞬一瞬にだけ、囲まれて。 名など不要だ、調べるな。 行進してゆく人々を見つめながら、置き去りにされたわたしの、残された命を、そっと抱いて。 小さき人と、話したいんです。 小さき人に、惹かれるんです。 ただ生み落とされて
2020年6月4日 00:00
誰にも見つけられぬままに、開かぬ翼の根元ついばんで、落ちてくる影に目を細め、鳴き。 狐という字面の観念から、わたしは孤を知る。 ただ一切の目玉に映らぬまま、折れた羽を舞い落とし。 影法師にもなれず、陰影の爪は引っかからずに。 顔を伏せて緑をほふり、土にくちばしを立てて、虚構性の冷たさに浸し。 わたしはわたしの非存在をのどに詰めて。 向こうで這い回っている、日で濡れて腐敗し