開催報告:食料システムを変えるテクノロジー・フードテック編
代替タンパク質や3Dフードプリンターなどの食分野の新技術「フードテック」は、持続可能性、多様な消費者ニーズへの対応、宇宙開発など多様な観点から注目を集めています。一方で、その社会実装を進めるためには、より広範な人々に理解して受け入れてもらうこと等に課題があります。
農林水産省では、グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)フォローアップイベントとしてオンラインシンポジウム「食料システムを変えるテクノロジー」を開催しました。その第2部では「食分野のテクノロジーの進化と社会実装の在り方」と題して、産学のエキスパートによる議論が行われました。
登壇者(敬称略)
第2部「食分野のテクノロジーの進化と社会実装の在り方」
宮城大学 食産業学群 教授 石川伸一
味の素株式会社 サステナビリティ推進部 ウェルネス・栄養グループ長 学術博士 石﨑太一
ONODERA GROUP Executive Chef 杉浦仁志
多摩大学ルール形成研究所客員研究員 吉富愛望アビガイル(モデレーター)
開催の概要はこちら(農林水産省HP)
社会はフードテックを受け入れるのか?
宮城大学の石川教授は(1)食分野のテクノロジーは生物の進化のように自然選択され、その選択圧は社会受容であること、(2)食物新奇性恐怖、新技術への不信感、文化喪失への危機感などが社会受容を妨げる「壁」となりうる、ことを指摘しました。そして、食物新奇性恐怖に対してはフードテックを身近に感じさせることが、新技術への不信感に対してはみんなであらかじめ話し合うことが、文化喪失への危機感に対しては既存の食へのリスペクトや共存の道のサポートが大切であると述べました。
「新技術に対して不信感を抱かせないようにするためには、アメリカのELSI(Ethical, Legal and Social Issues)、 EU のRRI(Responsible Research & Innovation)、日本の共創的科学技術イノベーションのように、あらかじめ、みんなで話し合うことが重要です」
フードテックの栄養改善への活用
味の素株式会社の石崎氏は、アミノ酸に関する知見を生かしながら、3つの視点、「美味しさ」「食へのアクセス」「地域や個人の食生活」を大切に、つまり妥協をしないで、生活者の栄養改善に取り組んでいることを紹介するとともに、フードテックが果たす役割について述べました。
「フードテックの活用範囲は、フードシステム全体に及び、人々のこころと体の健康、幸福感にまで貢献できます。今後の世界を鑑みると、フードテックには、栄養改善を含むサステナビリティに貢献するという観点が必要です。フードテックの目的は食糧問題解決であり、フードテックは古くから、その時代の最先端のイノベーションとして用いられてきました。フードテックをより世の中に大きく役立てていくには、異なる強みを持つパートナーが共創することが大切です」
食とテクノロジーの可能性
ONODERA GROUPの杉浦氏は、料理は様々な分野で人を幸せにすることができると述べ、料理人としてソーシャルフードガストロノミーとして食を通じて社会問題を解決し、食を通じて未来社会を豊かにすることをテーマに幅広い活動に取り組んでいることを紹介しました。
「高齢化社会をスマートシティと連結し、食×テクノロジーで健康で安全な社会を創ること、フードテックから世界と繋がり、食から楽しく環境問題対策に働きかけること、宇宙から地球を可視化し、地元食の価値を高めることを進めます。」
フードテックの社会実装に必要なことは?
ディスカッションでは、フードテックが社会や消費者にもたらすメリットの可視化が重要であること、消費者により近い位置にいる「ラストワンマイル」の事業者などの幅広い関係者がフードテックを理解することが重要であること、官民のコミュニケーションを十分にとり、新技術のもたらすリスクを事前に把握することが重要であること等の意見が出されました。最後に、モデレーターの吉富氏が、世界の中で日本が果たすべき役割について述べ、第2部を締めくくりました。
「日本には開発力、研究力、発信力があり、世界の食に対して価値を提供できます。今まさにフードテック市場が成長を加速している中で、日本が社会課題解決に資するようなイニシアティブをいかにとっていくのかが重要です」
おわりに
フードテックは生産・流通・加工・消費の各段階に広く及び、全体像や個々の技術を理解することは簡単ではありません。しかし、多様な関係者のコミュニケーションを通じて理解を深め、課題を特定し、連携していくことが、スムーズに社会実装を進めていく鍵になります。
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、国内外での議論への参加や情報発信を通して、フードテックを含めた食料のあるべき姿や未来への道筋づくりに貢献していきたいと思います。
執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
フェロー 樋口道弘
脱炭素化編はこちら
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