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経産省主催の国際会議で「Web3時代のグローバルな医療・介護のデジタル化」セッションを開催!

2022年11月22日、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、日本経済新聞社および経済産業省が主催する「超高齢社会の課題を解決する国際会議」( 5th Well Aging Society Summit Asia-Japan (WASS) )に協力してセッションを開催しました。本サミットでは、超高齢化という社会課題にいかに対応するかが議論されています。

本記事では、とくにWASSのパネルセッション④「Web3時代のグローバルな医療・介護のデジタル化」について紹介します。本セッションでは、ゲノミクスと健康のための世界連合 CEO のピーター・グッドハンド氏、SOMPOケア株式会社代表取締役社長 COO の鷲見隆充氏、早稲田大学社会科学部准教授の横野恵氏が登壇したほか、本センターからはヘルスケア・データ政策プロジェクト長の藤田卓仙、グローバル・コミュニケーション責任者のジョナサン・ソーブルも登壇し、医療・介護分野において、いかにWeb3やゲノミクスの活用を進めていくかについて検討しました。

新時代の医療・介護

はじめに、本センターのヘルスケア・データ政策プロジェクト長の藤田が、「Web3時代におけるヘルスケアデータ・ガバナンス」と題し、現状の課題や取組み、将来的な医療・介護のあり方について報告しました。

左:ピーター・グッドハンド氏 右:藤田卓仙

藤田は、データの活用による人々の幸福の実現と、プライバシー保護が喫緊の課題となっていることを強調します。まずデータ活用については、とくにデータ二次利用を考慮すると同意を逐一とるのが困難であること、現状のPHR (Personal Health Record) などのシステムが持続可能な仕方で運用されていないことなどの問題があります。他方で、個々人の視点でみれば、プライバシーへの配慮などデータが適切な仕方で運用されているか、データ活用によって直接に個々人に利益が還元されるかなどの問題があり、こちらもデータ利活用のうえで必ず考慮しなければなりません。

こうした問題は、Web3やメタバースといった新たな領域においても、生じうるものです。これら新たな領域においては、国家などが中心となってデータを集約するモデルから、個々人が自身のデータを管理する分散自律型モデルへと、データ・ガバナンスのあり方が変化すると言われています。このようなデータ・ガバナンスが成立するためには、トラストおよび持続可能なシステムが重要になるでしょう。そして、持続可能なシステムの成立のためには、企業やコンソーシアムだけでなく、国家や国際機関の協力も依然として必須だと言えます。

ゲノムデータの世界的な活用にむけて

ゲノミクスと健康のための世界連合 (Global Alliance for Genomics and Health; GA4GH) の CEO であるピーター・グッドハンド氏からは、GA4GH の取組みと将来のゲノムデータ活用について紹介がありました。

左:横野恵氏 右:ピーター・グッドハンド氏

GA4GH は、企業や研究機関など、何百ものステークホルダーで構成されている国際機関です。参加しているステークホルダーには、さまざまな背景や目的があるため、こうしたステークホルダー間ではデータの(あるいはシステムの)相互運用性が重要になるとグッドハンド氏は言います。

また、多様なステークホルダーが参画していることから、GA4GHのワークストリームもさまざまなものがあります。とくに、臨床データとゲノミクスデータのコラボが重要だとグッドハンド氏は言います。医学分野においては、基礎研究で得られたデータや知見を実践で活用するまでに15年かかっているという問題があります。この問題は、市場で行なわれる実証研究が担当機関のトップダウンによって主導されていることにその原因があります。このような状況を打破すべく、GA4GHは、このようなトップダウン方式の実証研究から、薬局や医療機関などとの密な連携を前提とする循環型の実証研究へ移行することを目指しているとのことです。

本報告では、GA4GHが目指す未来像を描いたアニメーションの上映もありました。そこでは、全世界で共有可能なデータセットをつくること、それでいてゲノムデータへのアクセス権限を厳格に管理することなどが提示されています。

また、こうした未来にむけては、データあるいはシステムの相互運用性をどう担保するか、そして人々からの信頼をどう得ていくかが重要だということをグッドハンド氏は強調し、本報告をとじました。

超高齢社会、日本の介護をどう変えていくか

SOMPOケア株式会社代表取締役社長 COO の鷲見隆充氏は、主に日本において介護事業に取組むSOMPOケアが、どのように日本の介護を変革していくか、その道筋について報告がありました。

左:ジョナサン・ソーブル、中央:鷲見隆充氏、右:横野恵氏

まず鷲見氏は、日本の介護を取り巻く状況について、データをもって示します。特筆すべきは、要介護認定者と生産年齢人口の動態と、それに伴う介護人材の不足でしょう。要介護認定者は、2025年には604万人、2040年には749万人となる試算が出ています。他方で、生産年齢人口は減少傾向にあり、2050年には全人口の約50%ほどまでに落ち込むと予測されています。こうした状況に伴って、介護人材は、2040年には69万人不足するとのことです。

介護人材の不足という大きな問題に対応するため、鷲見氏は、持続可能な介護システムと、介護の生産性向上が重要であると言います。まず、持続可能な介護システムということで、施設マネジメント、ケアマネジメント、介護サービスの三本柱で構成されており、テクノロジー・データ活用によって介護の質を向上させることを目標としています。また、介護の生産性向上は、介護人材の不足という問題を解決する糸口になるでしょう。

こうした問題をクリアすべく、SOMPOケアは、介護RDP (Real Data Platform) を構築することを目指すとのことです。介護RDPが構築されることで、今まで管理されてこなかったデータをうまく扱える形にしてプラットフォームに集約し、データに価値を見出すことができるようになるでしょう。たとえば、ベテラン介護職員の知見もここでいうデータに該当します。このデータによって新人介護職員がベテラン介護職員のような仕事ができるようになり、結果として介護の生産性向上がはかられることになります。

ゲノム情報活用における法的倫理的課題

早稲田大学社会科学部准教授の横野恵氏からは、ゲノム情報を活用する際に必ず考慮することになる、法的ルールと倫理的課題の概要に関して紹介がありました。

左:鷲見隆充氏、右:横野恵氏

横野氏はまず、ゲノム研究が進んでいる領域であるがん研究を例に、ゲノム情報の必要性を説明します。がんは日本人の死因第1位の病気であり、その罹患数も増加傾向にありますが、がん発症の原因には、主に高齢化による遺伝子の変異と遺伝的要因があります。ゲノム研究は、個人のがん罹患リスクを知ることができ、治療に役立てることができることができる点で大きなメリットがあります。

しかしながら、他面では、診療においてゲノム情報を利用する際、複雑な倫理的課題が生じることも横野氏は強調します。将来的に罹るリスクの高い疾患が明らかになってしまうことで、その人の人生に多大なる影響を与えてしまうおそれがあるということです。この課題は、ゲノム情報を利用する際に関係する法的ルールはクリアしていることを前提に、疾患リスクを本人やその血縁者にどう伝えるか(あるいは伝えないか)という点で倫理的課題であると言えます。

こうした倫理的課題は、医者・患者関係だけでなく、研究者・被験者関係にも変化をせまります。ゲノム研究ということでは、社会の役に立つというだけでなく、可能な限り直接に個人のベネフィットに還元できることが、倫理的に重要です。

また、ヒトゲノム計画において優生学的な考えへの反省があったことや、1990年に公開されたELSIプログラムにおける「公平性」の項目は、現代ゲノム研究でも参照すべき倫理的課題を示していると横野氏は言います。特に公平性要件については、差別や社会的不利益を被らないような法整備が前提であり、ゲノム情報の二次利活用のためには本人に不利益が及ばないことが制度的に担保されていることが重要です。

おわりに

本セッションでは、以上の4名の報告のほか、登壇者によるディスカッションも行なわれました。ディスカッションパートでは、主に、まずもってどのような課題を解決すべきか、企業や自治体とのコラボレーションなど、多岐にわたる課題について、議論が交わされました。いずれの課題にどのように取り組むにしても、地域住民など人々からのトラストが重要であるということは変わりません。

さて、盛況に終わった本セッションのほかにも、WASSでは基調講演やセッションが設けられています。また、「超高齢社会の課題を解決する国際会議 2022」の1日目にも、ヘルスケアデータ政策に関するさまざまなセッションが行われました。こちらもあわせてご確認ください。


世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
佐々木誠矢(ヘルスケア・データ政策プロジェクト インターン)

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