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【与太話】あのときの1万円

ビジネスモデルとは関係ない与太話です。
なぜこんなものを載せているのかの理由は、こちらを参照してください。

あのときの1万円

昔「ミクシィ」というSNSがありましたが、そのさらに少し前、「グリー」というSNSがあったのはご存じでしょうか。

世の中はまだスマホがなくて携帯でした。
携帯で写真を撮って誰かにメールすることを「写メ」とか言ってましたね。

そのころ僕は仕事がうまくいかなくて、落ち込んでいました。
ある日、気晴らしをしようと夜中に出かけまして。
芝浦にある「1時間200円」という、東京では異常な安さの駐車場にクルマを入れ、埠頭のあたりをウロウロしたんですよね。

埠頭からは、対岸のお台場の夜景がとてもきれいに見えました。
携帯で写真を撮り、「ちくしょう、がんばるぞー」みたいなコメントを添えてグリーにアップしたのです。

しばらくすると、ありがたいことに
「何かよくわからんけど、いろいろあったようですね。頑張ってくださいね」
的なコメントをいくつかいただきました。

そこまではよいのですが、その中に混ざってこういうのがあった。
「右下に行方不明の久保君が写りこんでいます。久保君、あのときの1万円返して」

いやいや、無人の夜景を撮った写真なんだから、だれも写っていないよ。
しかしよく見ると、崩れかけた顔みたいなのが、写真の右下に、ぼやっと写っている。

心霊写真か、これ。
久保君、1万円返さずに死んじゃったのかな。

次の日、グリーを開くと、今度はメールが来ていました。
「久保君、いるんでしょ。あのときの1万円返して」

いや、僕に言われても。

相手のプロフィールをこっそり見に行きましたが、何の情報もありません。
かといって、メールを返すのもイヤだった。
無視を続ける中、メールはほぼ毎日送られてきました。

そのころ、世間の注目はミクシィのほうに向けられるようになりました。
謎のメールにうんざりしていた僕も、お世話になったグリーを泣く泣く退会し、ミクシィに移りました。

ところが…。
来たんですよ、「久保君、いるんでしょ。あのときの1万円返して」がミクシィにも。

差出人のプロフィールを見に行きましたが、やはり何の情報もありませんでした。
しかも、その翌日、
「足あと見っけ。来てくださったんですね。うれしいわ。そこに久保君、いるんでしょ。あのときの1万円返して」

震えあがりました。
ミクシィって、足あと機能があった…。

結論からいえば、メールは3か月ほど続き、その後、ぴたっと来なくなりました。
実害はありませんでした。

でも無駄に想像力が豊かだった僕は、こんな場面を想像して慄いていました。

夜中にピンポンが鳴る。
インターホンから声が。
「久保君、いるんでしょ。あのときの1万円、返して」

そのときに持ち合わせがなかったら怖いなと思い、しばらくのあいだ、枕元に1万円を置いて寝ていました。





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