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びゃくさい
2022年1月25日 21:40
第9話(最終話) 結末最後の願いを叶えられる日の朝、斎賀は、ビジネスホテルで目を覚ました。時刻は、午前7時。ゆっくりと出勤の準備をして、8時過ぎには会社に着いた。役員たちは、すでに仕事を始めているらしく、会議室には明かりが灯っている。一応、顔だけ出して挨拶したあと、社長室に向かった。特に何か、やらなければならないことがあるわけじゃなかったが、ふと思い出した。自分が就任式で言った言葉
2022年1月24日 17:02
第8話 選択「内野社長、どちらに……?」夜。会社を出て行こうとする内野に、常務取締役の山中が言った。昼間判明した問題に対処するために、役員が集まって話をしており、まだそれは終わっていない。にも関わらず、会社の外に出ようとしている内野を疑問に思ったらしい。口には出していないが、顔に出ている。「大事な約束がある。 あとで戻る」 「会社の問題よりも大事な約束ですか?」「そうだ。
2022年1月23日 20:29
第7話 問われるもの斎賀は、頭を抱えていた。前社長の不祥事で失った、会社の信頼を取り戻すために奮闘している中、まったく予想もしなかった問題が発覚した。それは、簡単に言えば、会社の売上を粉飾していたというもので、どうやら厳しいノルマを達成するために、営業部門のマネージャーが、経理のマネージャーと話をつけて、他の誰も知らないまま、積み重ねられていた。厳しいノルマを出していたのは前社長だから
2022年1月22日 18:44
第6話 ギャップ斎賀は、何となくスッキリしなかった。社長としての業務に追われていると、他のことを考える余裕もなくなるが、モヤモヤとしたものはずっと心の中に残っていた。昨日出会った女性と、あれ以降接触がないのはなぜなのだろうか。(まさか、あれで終わりってことはないよな……? そういう仲になれるかどうかは自分次第っていっても、あれじゃあどうしようも……)「あ、そろそろ会議か。 さっき終
2022年1月21日 20:47
第5話 変わりゆく日常「社長、おはようございます」仕立てたばかりのスーツを身に着け、ミリアルに行くと、入り口で三人の男が頭を下げてきた。「あ、おはようございます……」斎賀は、どう対応していいか分からず、ぎこちなく挨拶を返した。そして、気づいた。この三人は、ミリアルの副社長、専務、常務だ。何回か見たことはあったが、話をするのは初めてだった。「歩いていらっしゃるなんて……明日
2022年1月20日 21:21
第4話 もう一つの興味BARファータスに着くと、斎賀は待ち合わせですと言って、テーブル席に座った。店員は快く対応してくれ、少し嬉しくなった。昨日の服装で、一人できていたら、たぶん怪しい目で見られただろう。このBARは少し料金が高めの店で、お客も全員、それなりに見える。しかも、金があればいいというものでもなく、品性を求められるため、いわゆる成金が来るような店ではない。(でも、俺も成金
2022年1月19日 23:05
第3話 変化3億円を手に入れた翌日。斎賀は朝7時に目を覚ますと、髭を剃って、髪をセットし、出かける準備を整えた。朝がこんなに清々しいのは久しぶりで、昨日までとは別の世界にいるのではないかとさえ思えてくる。外出用の服装に着替えると、斎賀は家を出て、銀行に向かった。ATMで一日に引き出せる額は100万円。1回に引き出せる額は50万なので、別々のATMで、2回に分けて100万円を引き出した。
2022年1月18日 20:08
第2話 ある紳士自分の気分が暗いときは、同じ景色でも違って見える。斎賀慎は、夜の街を歩きながら、何とも言えない居心地の悪さを感じた。自分だけモノクロの存在のようで、周囲から存在を認識されていないのではないかとさえ思えてくる。(やっぱり来るんじゃなかった……)ドンッ!「あ……すみません……」俯き気味になっていたせいか、前から歩いてきた人にぶつかった。「大丈夫かね?」「…
2022年1月17日 20:44
第1話 二人の男斎賀慎(さいが まこと)は、疲れ切っていた。会社を辞めて二ヶ月。今のところ、貯金で生活できているが、まだ次の仕事は決まっていない。探す気力もなく、朝起きて食事をして寝るだけの日々で、疲れが溜まる要素はないのだが、疲れ切っていて、動く気がしない。「……」部屋にある棚の上に置かれた観葉植物は、一部は俯き、一部は茶色になっている。なんだか、鏡に映った自分を見ているよう