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調査中:「二次創作」の初出を探す

「二次創作」という言葉がオタク文化の中に現れたのはいつか、はなかなか難しい調査です。かつては「アニパロ」「エロパロ」「やおい」などと呼ばれていて、それはアニメキャラを使った漫画同人誌を作る人達の多くは「パロディ」という意識を持っていたからで、しかしそのうちアニメに限らないしパロディとも言いがたい、という作品が増えはじめ、しっくり来る言葉がない……と皆が困っていたところに登場した救世主、それが「二次創作」。

法律上の言葉では「二次的著作物」と言い、創作者の許諾が必要ですが、その辺の話は置いといて、現在使われてる「二次創作」という言葉の誕生はどこからか、は気になりますよね。

国会図書館デジタルで検索すると、1921年の記事が引っかかって、脳がぶっ飛びますが、もちろんそれを初出とするのはバカバカしいことです。でもそんなふうに、誰でも思いつける言葉として「二次創作」があったという事実はちょっと面白いです。後ろから4行目辺りを御覧ください。

遠藤早泉『最近綴方教授思潮集成』p247(1921-11-25、隆文館)

謠曲の文學は決して純粹な創作といふよりは、古文學を綴り合して構成された二次創作とでも稱すべき文學である。而して斯の如き創作が自然に作製せられたといふことに就いては其處に面白い研究の餘地があるのである。

で、今回は現在のオタク文化的な文脈における「二次創作」の話です。

この言葉に早いうちから反応していたのは大塚英志でした。雑誌『小説トリッパー』2000年春季号(2000-03、朝日新聞出版)での大塚の連載「物語の体操」の第四回目〈物語の体操・第4講「二次創作」と「世界観」〉(単行本収録時に「村上龍になりきって小説を書く」に改題)では、下記のように言葉と出会った時の印象を書き記しています。

福田和也に押しつけられた彼のゼミの元就職浪人のセキグチくんと話していておや、と思ったのは彼が「二次創作」という言葉を使った時です。彼は小説家志願でぼくの事務所の版権モノのノベライズを一作手がけたりはしていますが、もともとはギャルゲーのキャラクターを借用した同人誌小説を書いていた男です。(今は立派なゲームのシナリオライターになっています)彼が「二次創作」と形容したのはこういった同人誌活動に於ける「既存のアニ
メやゲームの設定やキャラクターを勝手に使ってしまって小説やまんがを書くこと」を指してです。この程の同人誌活動そのものは今に始まったことではなく、ぼくがセキグチくんぐらいの年齢だった二〇年ほど前にはもうけっこう盛んだった記憶があります。ただ気になったのは「二次創作」という言い方で、それは多分セキグチくんの造語ではなく今の同人誌に関わる子たちに共通の物言いのようなのですが、なんだかどうにも倒錯した言葉のようにも思えます。
つまり「二次」と言うからには当然、「一次」、すなわちオリジナルの所在を認めている、しかし一方では「創作」という言い方でオリジナリティを暗黙のうちに主張している、そういう言い方のようにぼくには感じられるのです。

文庫版『物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン』p119-120

2000年初頭頃までに初めて大塚英志がその言葉を聞いた、とすると、「二次創作」という言葉は1999頃に生まれたのではないか、と推測が可能です。実際、色々検索してもこれ以降のものばかりです。

大塚の発見以前の数少ない「二次創作」の使用例には、雑誌『広告』2000年1+2月号(2000-01-15)があります。この時期の『広告』には「ニュークリエイターフロムweb」という、ネット上のクリエイターを紹介する連載があり、この号から執筆者が篠田匡弘に変わりました。篠田は「TINAMI」という「pixiv」以前にあったオタク系イラストのポータルサイト/検索エンジンの運営者で、ネットのオタク最新状況をダイレクトに感じられる立場にあったと言っていいでしょう。その篠田の文章に「二次創作」が登場します。

オタクの創作活動をおおまかにわけると、およそ2つにわけられる。純粋にオリジナルな作品を作り上げることと、すでにあるアニメ・マンガ・ゲーム等の作品のキャラクターや世界観を利用して二次創作をすることである。このどちらもがさかんに行われているが、後者の二次創作はファン活動の延長として位置付けられるために、前者の純粋創作よりも活発に行われているかも知れない。

『広告』2000年1+2月号p41

既に言葉が説明なく登場します。これはもう仲間内では普通に流通していた言葉ということかもしれませんね。この原稿は雑誌発行タイミングからして1999年末に書いているはずなので、1999年に「二次創作」があったことはまあ確定で。

で、ここまでは自力で誰もがたどり着けると思いますが(?)、それ以前があったのに気づいたのでその話。

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

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