ビョーキ的な彼女



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僕の彼女はビョーキ的だ。


世間一般で言われている猟奇的な彼女とは訳が違う。猟奇的ではなくビョーキ的に近い。
でも本当の事を言うと僕はちっともビョーキ的だなんて感じていなくて、常にドキドキワクワクさせてくれる最高の彼女だ。

僕は彼女の全部が好きだ。

個性的で大胆でちょっとワガママなとこ。
そしてはにかんだ笑顔。

大好きだし、自分の意見や価値観を主張できて、人としてとても尊敬する。

彼女と出会ってから、つまらない僕のモノクロの日常が一転し日常に色を添える・・・どころか非日常の世界を味合わせてくれた。



たとえば、「飛び出し注意」の道路標識を見つけると文字の下に

「飛び出し注意」
(↑性的な意味で)


と()で閉じられた文章をマジックで添えようとする。
フツー人からすればもちろん絶対に有り得ない行動だけど、彼女が言うには

「ドライバーへの注意を促がすのに効果的なのは、この文章があるのとないの、どっち??」

「・・・あるほうです!」


屁理屈だとは思っていても、何か憎めないその言動。


結局、警察やらがかけつけて事情を説明するのは僕だけど、でも彼女は最終的に「また迷惑をかけて、スマン」と謝ってくる。鼻をヒクヒクいわせて。

そう。その謝罪に意味は特にない。
なぜなら彼女はウソをつくと、きまって鼻がヒクヒクするからだ。





ずいぶん昔の話になるが彼女との初デートでドライブをした。

水族館へ向かう途中、彼女はいきなり「あの前の車を追って!」と言った。

火サスでもあまり聞かないその台詞にのせられアクセルを踏み、彼女の指さす「あの前の車」をとらえた。

その車は、漆黒のボディに日の丸や菊の紋章のデザインがほどこされ「天皇陛下万歳」と白文字で明記されている。

そんな思想的に多少偏りを持った方々のワゴン車を見つけると、彼女は一言「イカス」と呟き、真後ろをピッタリとマークするよう指示をする。

僕は、さすがにそれはマズイだろうと思って注意したが彼女は聞き入れてくれない。しばらくすると彼女は口を開いた。

「知ってる?前の車、左折しちゃいけないんだよ」

「え?なんで?」

「左折って、『左に折れる』って書くでしょ?右翼的な思想を持ってる人が左に折れるなんてことは絶対にあってはならない。目的地へ到達するのに例え遠回りだとしても、直進と右折のみで向かうの。思想的なウンヌンは抜きにして彼らの徹底した意志を貫く姿勢、私は見習うとこがある気がするんだよね」



考え方、モノの見方がやっぱり全然違うなと思った。
僕なんかじゃ絶対そんな思考は働かない。



というかその知識はいつどこで得るのか若干気にはなったが、でも改めて僕は彼女に惹かれていった。


だがその瞬間、漆黒のワゴン車はオレンジ色に輝く光を点滅させた。左側の。



そして瞬く間に左方向へ視界から消えて行った。


直進する僕らの前方から消えてなくなった漆黒ボディ。
僕は一瞬わけがわからず助手席の彼女の横顔に目をやると



彼女の鼻はひどくヒクヒクしていた。



僕の彼女はとても面倒見がいい。
初対面でも人見知りすることなくいろいろと世話をやいてくれる。

こないだ僕の大学時代の後輩を紹介したときのこと。僕の後輩は僕と雰囲気が似ていて、今の流行りでいう草食系男子。

その後輩に会った瞬間

「キミ細っ!!細っ!!ダメじゃん!もっと喰らえ!肉を!肉を喰らえ!肉!肉!」

といって後輩の背中をバンバン叩いていた。
割と強めに。

そしてそのままなんと「牛角(焼肉屋)にいくぞ!奢ったる!肉を喰らえ!肉を!」と焼肉をご馳走してあげたのだ。

牛角に入りメニューを見ながら彼女は後輩にこう諭す。


「人間はね、肉食なんだから。肉よ肉。肉喰っときゃ常に健康なのよ」
「そうなんすか!?なんかお肉ってタンパク質とか脂肪とかで栄養分に偏りが・・・」
「調理師免許初段のあたしが言うんだから間違いないの」
「へー!先輩の彼女さん調理師免許持ってるんですね!すごい!・・・え、初段?・・・段?」






この瞬間、彼女の鼻がヒクヒクしていたのは言うまでもない。





実は一度、彼女からプロポーズを受けたことがある。
それは彼女と付き合った最初の誕生日。

僕がプレゼントしたのが、壷。
こんだけ個性的な彼女、なにが喜ぶかなぁーと思ってさんざん迷って、ちょうど家にあったこの壷。

おもしろい彼女だから、このプレゼントが壷(ツボ)にはまればいいなぁって(笑)


そしたらなんと。やけに神妙な顔で彼女から貰った言葉は、「この骨壷に入ろうね」的な一言。

おそらく、プロポーズの決まり文句「一緒のお墓に入ろう」の骨壷バージョンなのだ!


僕は急すぎて何も言えなかったけど、今思えば僕はそのときに確信したのかもしれない。

この人と、何があってもずーっと一緒にいようって。
彼女の夢を、僕がサポートしないとって。


そう。彼女には夢があるのだ。
彼女の夢、それは絵本作家になること。


その事を彼女が最初に打ち明けてくれた時、僕は本当に嬉しかったしぜっったいにいい絵本作家になれるって。そう信じた。

絵本とか作家とかよく知らないから、根拠はないけど。
でも根拠のない自信はあった。僕は彼女の可能性を信じているから。

そんな彼女の夢を、僕はこれからもずっとずっと見守っていきたい。



でもきっと彼女のことだから、絵本作家になった次の夢も考えているんだろう。

その夢がなんなのかは想像もつかないが、できればその時に隣にいるのが僕でありたい。

それが僕の幸せであり、今の夢かもしれない。




先日、絵本作家の登竜門であるコンテストへ送るという最新作が、彼女から届いた。

最初に僕に見て欲しいとのこと。





題名 『とびだす絵本(性的な意味で)』



・・・



そ、そう!彼女はなんたってちょっと個性的。絵本の概念をぶち壊す!!僕といっしょに!!


僕の彼女はビョーキ的だ。


世間一般で言われている猟奇的な彼女とは訳が違う。猟奇的ではなくビョーキ的に近い。
でも本当の事を言うと僕はちっともビョーキ的だなんて感じていなくて、常にドキドキワクワクさせてくれる最高で素敵でとてもとても大好きで


大切な人だ。



<終>

「文字で紡ぐ笑いのプロセス」を伝えられるよう仕組みを構築したい。リモートなどで。この笑いのプロセスを理解できれば、笑いのある「日記」「エッセイ」「コント」「戯曲」の書き方が習得できる。はず。