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あまり語られていない、青学が箱根駅伝で優勝できた理由

2020年、令和初の箱根駅伝は青山学院大学が10時間45分23秒という大会新記録を打ち立てて幕を閉じました。僕は青学になんの所縁もないけれど、毎年箱根駅伝で同大学を応援しています。なぜかと言うと、原晋監督が好きだから。好きというか、原監督のチームマネジメントが素晴らしいと思っています。

青学は10年ほど前まで長らく箱根駅伝に出場できない弱小校でした。2004年に原監督が就任し、5年後の2009年に実に33年ぶりに出場。その後着実にステップアップして2015年に初優勝を果たすと、2018年まで4連覇を成し遂げます。学生スポーツは毎年部員が入れ替わるため、継続的に結果を残すのは容易ではありません。

にもかかわらず、強豪ひしめく箱根駅伝で4連覇を達成するということは、すなわち原監督が耕した土が選手を開花させる土壌になっているということだと思います。原監督の指導法は「フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉」などに載っているので詳細は省きますが、その原監督の成果が箱根でどう結実するのか、毎年テレビの前で楽しみに見ています。

しかし、森田歩希選手、小野田勇次選手ら主力の抜けた今年度の青学は“最弱世代”と呼ばれ、かつてない逆風に立たされていました。

2019年春に行われた日本学生ハーフマラソン選手権では、今年の箱根駅伝2区の区間新で話題をさらった相澤晃選手(東洋大)、その相澤選手と笑顔の“ランニングデート”を繰り広げた伊藤達彦選手(東京国際大)らが上位に名を連ねる中、青学は吉田祐也選手が18位に食い込むのがやっと。原監督も「これじゃ戦えないよね」とお手上げ状態でした。10月の出雲駅伝も5位に終わり、続く全日本大学駅伝では2位になったものの優勝した東海大学との力の差は歴然。そう、今年の東海大学は4年生が“黄金世代”と呼ばれ、優勝候補の中でも頭1つ抜けた存在だったのです。

“黄金世代” VS “最弱世代”という、かなり不利な戦い。

でも、蓋を開けてみたら「やっぱり大作戦」を掲げた青学が他校を寄せ付けず優勝しました。

秋にナイキの厚底シューズを解禁したこと(青学はアディダスとパートナーシップを結んでいます)、1年生の岸本大紀選手が2区でエースの名にふさわしい走りを見せたことなどが勝因として挙げられていますし、もちろんその通りだと思うのですが、僕は3人の4年生がチーム全体の底上げをしたことがポイントだったと思っています。

今回の箱根駅伝では、3区の鈴木塁人選手、4区の吉田祐也選手、6区の谷野航平選手、7区の中村友哉選手という4人の4年生が出走しました。そのうち鈴木選手以外の3人は箱根初挑戦。日本全国が注目する箱根駅伝で初めての選手を起用するというのは、原監督からしたらリスキーなことでもあったはず。しかし、2年連続“11番手”に甘んじていた吉田選手は相澤晃選手の持つ区間記録を更新する快走。谷野選手が“山下りのスペシャリスト”小野田勇次選手の後継者にふさわしい活躍を見せれば、一時はマネージャー転向の話もあったという中村選手も区間4位と粘りの走りを見せたのです。

これまであまり日の目を見ることのなかった4年生に、最後の最後で眩しいくらいの晴れ舞台を用意した原監督。そしてプレッシャーに潰されることなく、むしろ力に変え、監督の期待に見事に応えた選手たち。彼らの走りはブラウン管越しでも伝わってくるほどの気迫に満ちていました。

吉田選手はレース後、付き添いの下級生に「これが4年の意地だ」と言っていました。最初で最後の箱根ランナーとなった4年生たちが見せた火事場の馬鹿力こそが、“最弱世代”の青学が優勝できた一番の要因なのではないでしょうか。そして、それをお膳立てした原監督。レース中には監督車から「やっぱりお前すごいよ!」と選手たちに声をかけ、彼らのモチベーションを最大限に引き出していました。原監督のチームマネジメントは、やっぱりすごいなと思います。




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