テレビ壊れた際、新品を要求された  引越で増加する「カスハラ」

 カスタマーハラスメント(カスハラ)は、年々増加している。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、ハラスメントの相談件数は、「パワーハラスメント」(パワハラ)、「セクシュアルハラスメント」(セクハラ)に続き、「カスタマーハラスメント」が3番目の多さになっている。運送業界でもカスハラは存在するが、全日本トラック協会の相談窓口に寄せられる相談の9割は引越に関するものだという。

 全日本トラック協会の輸送事業部が近年対応を強化し、事業者への研修会でも取り上げているのがカスハラ(カスタマーハラスメント)対策だ。カスハラとは顧客が企業や従業員に対して理不尽なクレームや要求をすることを指す。5月17日に厚生労働省が公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」の報告書によると、「顧客等からの著しい迷惑行為」の相談件数は「過去3年間に相談件数が増加した」と答えた企業が23・2%にのぼり、「減少した」と答えた11・4%を大きく上回った。
 カスハラに当たる行為が増えた要因は、 SNSを通じて顧客が企業を容易に批評できるようになったことが大きいようだ。

 引越事業者や保険会社に話を伺ったところ次のようなカスハラが挙げられていた。
 「10年前のテレビが壊れた際に、新品を買うよう要求された」「作業後に顧客が冷蔵庫を動かし、その際に付いた傷や汚れをこちら側の責任にされた」
 「物理的に無理な状況下で責任者を呼ぶよう要求された」「家主から鍵の返却の仕方について難癖を付けられ、虚偽の言いがかりで自社や仲介業者に何通もメールを入れられた挙げ句、法的措置をとると脅された」といった話である。
 カスハラによる被害について引越事業者は、「カスハラが発生すると、その対応に追われて現場や事務的な作業に遅れが出てしまう。それに顧客から高圧的な態度で出られると、こちらも人間なのでケンカに発展してしまうこともある。従業員の中にはカスハラをきっかけに心を病んでしまった者もいた」とする。
 また、「こちら側からは引越作業や顧客対応を丁寧に行うことでしか対策はできない。それでもカスハラは発生する時はする。弊社ではカスハラの事後対応は保険会社やプロにお任せしている」と話し、自社対応だけでは限界があるとしている。
 別の引越事業者は、「うちのように小規模な会社だとお客さん一人一人の事情に合わせたサービスを提供できるが、ある程度の規模の会社だと社内で連携をとるのに時間が掛かり、個々に合わせたサービスをするのが難しくなる。トラブルが発生する背景にはそういったこともあるかもしれない」と話す。

 全ト協輸送事業部では「『基本姿勢は誠意を尽くし、賠償するべき時は賠償すること。過剰要求には毅然とした対応をとること』と研修会で説明している。また、カスハラに対応する心構えとして『個人としてではなく、会社、組織、事業者として取り組む』『カスハラの判断尺度により、企業がどこかのタイミングでカスハラ案件として認定する』『賠償とカスハラを分けて対応する』『納得』や『合意』を目指さない」をポイントとして挙げた。
 クレームへの対応を請け負う保険会社では、「カスハラ対策としては、苗字のみの名札で従業員のフルネームが分からないようにする、電話には録音機能を付ける等の『入口の予防策』を始め、万が一、カスハラに遭ってしまった際のプロの助けを用意しておくことが重要。現場従業員の裁量に任せたり、当事者間で解決しようとせず、専門家の助言を参考に、対応する事をすすめます」と説明する。(6月17日号)

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