産業医面談もオンライン化して問題ないのか
産業医面談のオンライン化が話題になり、調査をしたので今回はそれを取り扱います。会社業務においてあらゆるものがオンラインでできるものとそうでないものが峻別されていきますね。そのうち対面業務がプレミアムになりそうな気配ですね。
1 懸念点は何か
産業医面談に関連して会社の是非が問われるようなケースは主として復職検討に関する場合になるかと存じます。
言い換えれば、会社として検討すべきポイントは、産業医面談をオンラインで実施したことが休職満了・復職許可における会社の判断の合理性に影響を及ぼさないかという点になります。
2 見解
以下の三点を充足すれば産業医面談を実施した際に、オンライン面談であったことが休職満了・復職許可における会社の判断の合理性に悪影響を与えるという可能性は極めて低いものと考えてよいでしょう。
①適時適切にやりとりできるオンライン環境の充実
②オンラインのセキュリティがしっかりしていること
③実施に懸念等が生じた際にリアル等で対応できる体制の整備
加えて設計の際に産業医と協議の上で体制を設計しておくべきことを申し添えます。
厚生労働省等の専門機関の見解を充足するように産業医という専門家と協議の上で設計された体制に則って取得した専門家意見を基にした判断である以上、企業として注意義務を果たしており尊重すべきものとなります。
3 理由
厚労省は2015年の通達(2015年9月15日基発0915第5号)で、産業医の面接指導について直接対面を原則としつう、例外的に許容できる状況について記厚労省通達をざっくりとまとめると、下記の3点がポイントとなります。
①適時適切にやりとりできるオンライン環境の充実
②オンラインのセキュリティがしっかりしていること
③実施に懸念等が生じた際にリアル等で対応できる体制の整備
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150918-2.pdf
加えて、産業保健委員会は新型コロナ対応の中という特殊状況下の話題ではありますがQ&Aにおいて「面接は対面ではなく、テレビ会議を優先してください。」とテレビ会議で面接ができることを前提としております。
https://www.sanei.or.jp/images/contents/416/COVID-19Q&A0324.pdf
更にいいますと産業医面談は診療行為でなく、通常の労務提供をできる状況かという意見の表明のための行為になります。オンライン診療やオンライン受診勧奨がそれぞれ一定条件下で認められていることからしますと、オンライン環境等が整っている状況下での産業医のオンライン面談の信用性を否定することは前述とのバランスを失すると言わざるを得ません。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf
以上の点を踏まえると上記の3点を充足したオンライン産業医面談は適法かつ適切なものと考えるべきでしょう。
4 実施に当たっての注意点
紛争対応という観点からは、問題なくオンラインで産業医面談をできるようにしても、問題があると主張された際に問題ないよと立証できるようにしておくことが必要になります。
上記②はシステムレビューを上記③はルール・体制作りをきちんと行い、その結果を書面等できちんと残しておくことが重要になります。これをしておけば個々の実施についてはさほど気にしなくてよくなります。
他方、①については実施毎に問題が起こり得るので紛争時に音声が悪かった映像が悪かったといったという主張にそれぞれの面談において対応できていたことの証跡を残す必要があります(なお、あくまでも実際に問題がなかった場合の話であり、そもそも音声・動画に問題があれば、リスケや対面実施への切り替えが必要になります)。
クレームへの対処のため証跡を残すという観点から一つの方法として録画があります。これは、証跡を残すという点では極めて有効なのですが、他方で
面談者が嫌がったり身構えてしまい素直に話さなくなる等そもそもの面談自体に支障を生じさせる可能性があります。
他の手段として、面談の開始時に音声・画像に問題がないか確認をして、問題ないと確認をし、問題がなかったのでオンライン面談を始めた旨を意見書に記載するようにするという方法があります。
この場合、産業医(会社側)の確認だけになるため反証のおそれはあるものの、逆に言えば反証が必要になりますので目的である言いがかりの排除は実現されます。
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