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【塵手水】 #逆噴射小説大賞2020

 鬱憤を抱えたまま訪れたいつもの定食屋の床に見知らぬ男が転がっていた。声をかけ揺さぶるも返事はない。店内のレイアウトにこれといって変わった様子はないが、店の奥に目をやると先程まで無人だったはずのカウンターにボロを纏った何者かが立っていた。

 無言で本日のお品書きを渡される。

青龍刀 1200G
トカレフ 3800G
手榴弾 80G
撒菱 15G
ボロ 60G
麻雀パイ 10G
龍角散 150G

 自分の手持ちが一体何Gなのか不安ではあったが青龍刀を一本と十の撒菱、安かったので麻雀パイをカードで購入した。武器を持たざるを得ない、自身の中でそれは確信に近かった。ボロは先日まで厨房であった場所へ一度引っ込んだ。

トラワレシモノ、キッチンノワキノトビラカラソトヘデヨッ!

 突如横たわっていた男から音が響き渡る。恐怖で喉がひきつる。買い足す。龍角散。

ソトヘ、デヨッ!

 なにかがヤバい、。急いで品を受け取り扉を蹴破る。

 

 気がつくと俺はどこかのカフェのテラスにいた。


 青い空に焼けた大地が混ざり合うことなく広がる。緑のサボテン、ジュートの袋の吊られた壁から複数の雀がテーブルへ飛んできた

タベタイナ コンガリヤケタ トルティーヤ

 トルティーヤのパイ、手元にあった。雀の口から鋭利な何かが飛び出す!撒菱!飛んでくるスズメの数だけの撒菱!十羽!
 トルティーヤ!熱々をぶん投げる!雀は去ったが撒菱は左腕と右膝に傷をつけた。

 ジュート、雀、パイ、撒菱。

 不安が過る、青龍刀。

 蜃気楼?荒れた大地の向こう、一列に並んだ男たち。シャツの肩口から伸びる青い龍の刻まれた肌。刀。
 俺は走り出して再度トルティーヤをぶん投げた。灼熱の太陽にさらされた熱々のやつを、だ。追い撒菱、1人が倒れた。

 「よくやった。」

 声の聞こえた真横を見る。乾いた大地の上、塵手水。最強の男の姿がそこにあった。

 「人生の夜明け、土俵際の大逆転だ。」

 男は言った。




続く


本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。