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お読書のコーナー⑤ ─『鴉』

 今回は、とんでもねえモノを読んでしまった…という読後感の作品です。


 さて、今回紹介するのは麻耶雄嵩『鴉』です。
 「からす」…って読めるよね?普通にね?

 1997年の作品で、「'98 本格ミステリベストテン」に選出された本作、裏表紙のあらすじには【神話的最高傑作!】と踊る文字。

 ネットの「〇〇ミステリ特集(丸部分は伏せておきます)」みたいなページで紹介されていて、いくつか惹かれる点があったから読みたいリストに入れておいた。

 で、どういった点に惹かれたかというと、

①, 〇〇ミステリ(これは読み始めた時点で綺麗サッパリ忘れていた)
②, 「地図にない異郷の村」という状況設定
③, 「大鏡」という独自の信仰対象(現人神、あらひとがみ)

 の三点が主である。これらについてはあらすじで触れよう。
 では、行きましょう。


あらすじ・紹介

 弟・襾鈴(あべる)の失踪と死の謎を追って地図にない村に潜入した兄・珂允(かいん)。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき連続殺害現場。盲点衝く大トリック。支配者・大鏡の正体。再び襲う鴉。そしてメルカトル鮎が導く逆転と驚愕の大結末。
(幻冬舎文庫・裏表紙より引用)

 と、一応いくつかのワードが体言止めで書かれてはいますが、いくつかはそこまで関係がない。確かに物語上で絡んではくるが、本当に”絡んでくる”というだけで、本筋とはまた別の知識的な展開をする。あるいは私が関係性を読み取れていないだけかも。
 どちらかというと、この特殊な村を説明し、より没入感を増すためのスパイスであると言ったほうが近いかもしれない。


 主人公である珂允(かいん)は弟である襾鈴(あべる)を探している途中、この舞台となる村(昔は埜戸、のど、と呼ばれていた)に迷い込んでくる。さて、村に入ろうかというときに珂允は鴉の大群に襲われ、意識を飛ばしてしまう。
 次に気がついたときには千本家という名家(といってもそこまで大きくはないのだが)で、布団で寝かされていた。救ってくれたのは千本頭儀(せんぼんとうぎ)という名前の男性であり、彼はそこに厄介となる。

 現人神であり、村人の信仰対象となっている大鏡様が制定した掟のもと、みなが生活しているこの村では西・東の対立構造ができており、西の長が菅平家、東の長が藤ノ宮家である。その菅平家の遠臣がある晩、何者かによって殺されてしまう。
 その真相と、村で半年前に死んだ、皆から嫌われていた野長瀬(のながせ)という男の死の真相を暴くため、橘花(きょうか)という少年は二人の友人とその調査を始める。兄の櫻花(おうか)は、いつも遊びまわって家の手伝いをしない弟に辟易していた。

 調査の途中にメルカトル鮎というシルクハットにタキシードを来た男と邂逅する珂允。兄の襾鈴は村で大鏡様の側近(庚、かのえ、様と呼ばれていた)となり、持統院(じとういん)という高位の者以外は会話することもできない大鏡様と話し込むこともあった、など、かなり親しい関係を有していたことを突き止める。
 兄の話を聞くために持統院へ「大鏡様と会わせてほしい」などと直談判をするも、むなしくそれは拒否されてしまい、彼は調査に難航するのだが──。


といったストーリーだ。

 村の文明レベルは多分に低く、例をあげると時刻を知る術は大鏡様が打ち鳴らす鐘の音しかなく、村民は時計を持っていない、というか存在自体を知らない。また和服を着て生活しており、主人公のような洋装をしている人物は村内に一人もいない。
 また基本的に自給自足の生活であると推察される。

 主軸となる登場人物の名前に注目。カインとアベル、だ。あまりに露骨すぎるんじゃないかと思うが、これはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の書物である旧約聖書『創世記』に出てくる兄弟のことである。兄と弟のポジションも名前そのままだ。
 この兄弟がどういうモノなのかというのはこちらのページに詳しく書いてある。まあ重要な点は、人類史上はじめて「殺人の加害者・被害者」となった兄弟なのだ。この知識を有する者であれば、本作を読み進める前にもう「おっ」となるのではないかと思う。



感想

 おもしろい。たしかにおもしろいんだけれど、いくつか残念ポイントがあったかも。
 基本的に登場人物の名前の読みが難しく、登場人物のだいたいが少し間をあけてまた登場したら「これなんて読むんだっけ?」となることが、特に序盤に多かった。
 人里はなれた村で、かつ村内で対立構造が生まれていて、おかしな風習があって、特殊な信仰対象がいて…、という状況設定は基本的に好きなので、そこがよかった。あとは村の風景を頭の中で空想できるほどのディティールの克明な書き込み。
 群像劇的というか、いくつかの視点から紡がれていくのがいいね。特に橘花と櫻花のパートはよかった。
 他方でいくつかの人物の心情(というより腹の中)がわかりにくかったのが残念。千本家の人々、特に頭儀さんはなぜ珂允をかくまってくれたのだろうか?

 トリックについては見事。もちろん殺人のトリックもそうなのだが、それ以外のところでもいくつか伏線があり、中盤まで読み進めていくぶんには何にも気づかなかった。
 中盤以降はなんとなく当たりがつきはじめたけど、最初にいった〇〇トリックまではまったく気が付かなかった。たしかにその”固有名詞”は言ってないよなぁ、と思う。
 ただオチなぁ~~~。わざわざそれにしなくてもよかったんじゃないの、という感じのオチなんだよな。たしかに彼のやった事的に気持ちよく終われるはずはないんだけれども、その死因があまりにも突飛すぎて残念。そんなすぐに症状が出ないよなぁ、と思う。

 おすすめ度は5レベルだとすれば2.5です。あくまでも「おすすめ度」だから、作品の評価ではない。
 ある程度ミステリとか他ジャンルの小説に慣れている人なら「そんな?!」ってなるかもしれない。逆に普段から小説なぞ読まんわ、って人にはおすすめしにくい。途中で投げ出すと思う。人に「〇〇トリックの名作教えて!」って聞かれて、4~5番めくらいに挙げる作品だな。



(終)

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