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光を灯す

瑠美は、北の地で静かに暮らす看護師であった。彼女は日々、がん患者のサポートを行いながら、その心に寄り添う術を磨いていた。彼女にとって、患者たちの心に少しでも安らぎを与えることが、この上ない喜びだった。

ハチミツさんという名の患者が瑠美のもとを訪れたのは、ある春のこと。彼女は乳がん治療の副作用に苦しみ、心も体も疲弊していた。しかし、瑠美の優しい言葉と、終わりなき支援の手が彼女に安心を与えた。

瑠美は、自身も幼い頃から様々な苦難を乗り越えてきた。彼女はその経験から、どんな困難も心の持ちようで乗り越えられると信じていた。そう教えてくれたのは、かつての彼女の師匠であり、心の底から尊敬していたラベンダーさんだった。

瑠美とハチミツさんの対話は、治療の一環としてだけでなく、やがて深い心のつながりへと発展していった。ハチミツさんは瑠美を通じて、自身の内面と向き合うことを学んだ。痛みを乗り越え、時にはそれを忘れるための空想やイメージトレーニングを共に行った。

しかし、規則によりその対話は終了を迎えることになった。ハチミツさんは、瑠美との別れが惜しくてたまらなかった。彼女は、瑠美とこれまでのように話すことができなくなることに深い悲しみを覚えたが、同時にこれまでの対話が自身に与えた勇気と希望を胸に新たな一歩を踏み出す準備を始めた。

瑠美はハチミツさんに最後の言葉を贈った。人生は美しいものです。私たちはそれぞれの困難を乗り越えながら、その美しさをより深く感じることができるのです。私たちの対話が終わるとしても、あなたがこれまで学んだこと、感じたこと、それらはすべてあなたの中に生き続けるでしょう。

ハチミツさんは涙を流しながらも、瑠美の言葉を胸に刻んだ。彼女は知っていた、これから先の道は孤独かもしれないが、瑠美との出会いが彼女自身を強くしたことを。

月日は流れ、ハチミツさんはホルモン治療を始め、時には痛みと向き合いながらも、日記をつけることで自分の心と向き合い続けた。彼女の日記は次第に自己表現の場となり、自分だけの物語を綴ることで、内なる力を確かなものに変えていった。

そして、ある日、彼女は自分の経験を基にした本を出版することを決意した。瑠美との出会い、治療中の苦悩と喜び、そして何よりも自分自身を癒す旅。それらすべてが彼女の物語として形になった。

発売されたその本は、多くの人々に読まれ、同じような苦しみを抱える人々に希望を与えた。ハチミツさんは、自らの経験を通じて、他の人々の光となることができたのだ。

瑠美もまた、その本を手に取り、彼女がどれほど遠くまで進んだかを知り、心からの喜びを感じた。彼女は知っていた、ハチミツさんのような患者との出会いが、彼女自身の人生にも深い意味をもたらすのだと。

二人の間にはもう直接の対話はないかもしれないが、その絆は時間や距離を超えて、永遠に続いていく。それはまさに、痛みを越えて見出した美しい人生の証なのだった。

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