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俺はこういう居酒屋が1番落ち着くんや 〜双子の生活37〜

しばらく更新が止まっていて申し訳ありませんでした。
書くことがなかった訳ではなく、色んな予定が立て込んで体力的に書くのが厳しかったのです……
その分しばらくはここ数日で起こったことを毎日小出しにしていこうかと思います。あと今回はギャグ要素なんにもないし重たい話も多いので苦手な方は注意してください。


2024年2月某日

いつものように夜勤から帰って飯を食べ、さてそろそろ寝るか……というタイミングで電話が掛かってきた。

そもそも電話の着信が苦手で、どんな着信だろうとビビって身構えてしまうのだが、名前を見て驚愕した。
大学時代の友人の名前がそこにあった。

その友人Tは同じ学科で、大学時代ほぼ毎日一緒に昼飯を食べ、講義合間に喫煙所へ行き、たまにカラオケやダーツを楽しんだ仲。しかし卒業してから10年一度も会うことはなく、最後に連絡を取ったのも5年ほど前。
居住地の広島県で結婚したことを知り、なんとなく連絡しづらく、そして気軽に会いに行くには距離が遠すぎて疎遠になってしまっていた。
生活が少しだらしなかったTの事を心配に思いながらも、こちらから連絡できなかった。今にして思えばくだらない理由で積極的に連絡できなかった自分が恥ずかしい。

そんなTからの着信には当然驚いた。ここ数年で一番の衝撃と言っても過言では無い。
スマホを落としそうになりながらも、慎重にスワイプして通話を開始した。


――もしもし?
おお、じいこ!久しぶりやねぇ〜。

――えらいビビったわ、急にどないしたんや?
今度24日から数日東京遊びに行くんやけど、せっかくやし会わん?

いいに決まってる。
話したいことが山ほどある。そして、聞きたいことも。
20分ほど会話し、東京滞在中はうちに泊まることを勧め、一度電話を切った。
その間に分かったのは、色んな事情があって離婚し(元嫁や子供との仲は良好)、交通事故を起こされ怪我をし、かなり前からうつ病と戦っている……そんな近況だった。

少なくとも東京観光中はのびのびと、普段の生活を忘れて楽しんで欲しい。そのために可能な限り俺に出来ることをする、そう決めた。


2024年2月24日 午前7時半

広島からの夜行バスで到着する時間に合わせ、俺と兄・PNRAでバスタ新宿へ向かった(PNRAもTと関わりがあった)。

Tは持ち前の物忘れ癖を発揮してコートを家に忘れ、寒さに震えながら現れた。懐かしさに笑いながらコートを貸して自宅へ移動。しばらく談笑したのち、Tはネット友達とのオフ会へ出発した。

24日、25日はオフ会の予定で、広島へ帰る26日が俺、そして関東に住むかつての同級生達と食事する……そんなスケジュールを組んでいた。

結局Tは24日の昼から25日の朝までぶっ通しで飲み歩き、うちへ帰宅して俺と世間話をしてから、またせわしなく別のオフ会へと旅立つ。大学生の頃でも無茶であろう詰め込みスケジュールを死にそうな顔で、しかし楽しそうにこなしていった。


2024年2月26日

うつ病の他に不眠にも悩まされるTは、尋常じゃない量の睡眠薬で無理やり眠り、日中はひたすらカフェインを摂取している。その様子に心配はあれど、貴重な飯の機会を無駄にしないためにもこの日は朝から飲みに繰り出した。
向かったのは池袋北口にある大都会という24時間の居酒屋。双子が夜勤明けにたまに飲みに行く店だ。

この店、とにかく癖が強い。
この記事を読めば何となくわかるはずだ。システムが訳わからんということを。

食券を買い、テーブルの番号を記入し、食券提出所へ持っていけば料理が運ばれてくる。食べ終わった食器はセルフで返却口へ持っていく。

突き詰めればそれだけなのだが説明が一切ないし、ビール4杯券を買うと『ビール4杯券』と書かれた券が4枚出てくる。つまり16杯出てくるのか……?と不安になる。そんなトラップが山のように襲ってくるし、池袋の激安24時間居酒屋という特性上、治安も怪しい。
初心者には全くおすすめできない店だ。

Tも最初はたじろぎ、「こんなん実質紹介制やん」と笑っていたが、何度か注文を繰り返すうちに常連と同じように食券を操るようになっていた。彼は大都会に向いている。


ビールを返却口に運ぶPNRAと見守るT

10年という空白を数時間で埋めるために、いろんな言葉を交わしていく。
Tは言った。
「大学で学んだ映像や画像編集の技術が、どんどん失われていくのが恐ろしい」と。
同級生で映像に関係の無い業種へ進んだ人間は少なく、Tはその一人である。その気持ちは痛いほどわかる。俺も就職したテレビ制作会社を音速で辞めてから一度もそういう仕事をしていないから。
今年32歳。順調に生きている人ならば貯金も500万を超え、仕事も重要な役職へランクアップしている頃合い。一見当たり前の『平凡な人生』から途方もなく離れた、そんなアウトローな人種がここに3人集まっている。

傷を舐め合うつもりは無い。そんな行為に意味は無い。

T「こういうとこで安いモツ煮とビール……俺はこういう居酒屋が一番落ち着くんや……」

ただこの空間が心地よかった。


………………
…………
……

昼前に店を出てPNRAと分かれ、Tと俺は横浜へ移動し大学の仲間たちとの食事会へ移動した。
T以外にもブラック企業で精神ぶっ壊したり、なにかしら滅茶苦茶になったメンツも多かったが、全員それらを過去の話として笑いながら過ごしていた。

お開きとなってからバスタ新宿へ向かい、Tを見送る役目を仕った。
行きも帰りも広島東京間を夜行バス。言葉にはしなくとも様々な事情が思い浮かんでは消えていく。

でも別にいいじゃないか。人生山もあれば谷もある。まだ谷しか来てなくとも、いずれ山が来ると信じて生き、そのために今できる最大限の努力をする。人はそうやって進んでいくものだと思う。

拙作『届けそらの彼方まで』のテーマは『何事も遅くないから今を必死に生きろ』。このテーマは今まで見聞きした中で俺がたどり着いたひとつの真理。俺の人生もTの人生も、必死に生きていればそう悪くない結末を迎えられると信じている。


T「じいこありがとな、貸してくれたPASMO無かったら俺東京で迷子なって詰んでたわ」

なぁTよ、旅行の〆がそれでいいのかい?

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