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【今日コレ受けvol.094】オレの通天閣

7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


人生、たった10秒で価値観がひっくり返ることもある。

昨日、「通天閣」に取材に行った。
通天閣は、1912年にパリをイメージして創られた大阪のシンボルタワーだ。下は凱旋門、上はエッフェル塔をイメージしたユニークな姿をしており、上層部には展望台がある。はるか奈良まで見渡せる景色が人気を集めてきた。

しかし、なぜかそこに昨年5月、スライダーが完成した。通天閣の3F(地上60mの高さ)から1Fまでを、時速30kmですべり抜ける屋外すべり台だ。しかも、スライダーの外周はスケルトン。外の景色が見えるので、余計に怖い。

「いやいや、通天閣にスライダーって! 
 何も好きこのんで通天閣ですべらんでも」

完成したとき、そんな会話を地元の友だちと何度もしたと思う。

私はジェットコースターが大の苦手だ。それに、そもそも通天閣はスリルを味わう場所やない、と思っていたのだ。


ところが取材の最後、社長さんが突然、「よかったらすべっていってください」とサービス精神を発揮された。心ではブルンブルンと首を横に降ったが、同行していた代理店営業さん(70代近い男性)がノリノリで、「ぜひ!」とおっしゃったのである。えええ。

直前まで、
「いやや。絶対怖い。すべらんでも聞いた内容で十分原稿書けるから堪忍して~!」
と思っていたのだけれど、仕事ならいたしかない。覚悟を決めて、すべることわずか10秒。けれど10秒すべった後には、全く反対のことを思っている自分がいた。

生身の身体ひとつで吹っ飛ばされるスリルと、スキージャンプノーマルヒルと同じスピードだという疾走感が、ストレスを吹っ飛ばしてくれたからだ。そ、、爽快!

私の意識は一気に、
「通天閣にきたらスライダーすべらなソン!」
くらいにまで激変した。なんならママ友にも薦める気マンマンだ。

たかが10秒、されど10秒の体験。
これだから人生は面白い。

ちなみに、取材を通じてもうひとつ見方が変わったことがある。それは、通天閣という建物は誰のものか、という話だ。

通天閣は大阪のシンボル。界隈に住む人は誰しもが、愛着を込めて「オレの通天閣だ」とよく言うそうだ。だが、実は通天閣は今、ある企業の持ちものである。厳密に言えば、所有権的には、その社長さんの持ちものなのだそうだ。

社長さんが笑顔で、「オレの通天閣です」ときっぱりおっしゃったのを聞いて、笑ってしまった。

大阪のシンボルタワーを「オレの」と言える人がいて、それが真実だなんて、面白くてカッコいい。

たった1時間の取材で、2つの価値観が180度変わった日。

だからライターはやめられないのだ。

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