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データ分析・活用の事例を分析する:3月は新生活にフォーカスを当てたプロモーション

分析屋の下滝です。

本記事のシリーズでは、データ分析・活用だと思われる事例を分析しながら、我々はどのような活動をデータ分析やデータの活用だと呼んでいるのかを考察していきます。

なお、データ分析の各種の枠組みを分析していくという別観点のシリーズは以下を御覧ください。

過去の事例記事の一覧はこちら。

過去の事例分析を整理してまとめた記事はこちら。



事例

今回は、前回の記事と少し特徴が似ている事例を扱います。つまり、何らかの想定をもとに決定が行われており、その想定をデータにより確認するという特徴です。

具体的には以下のホームセンターのグッディの事例を参考にします。

ユニークなところでいえば、3月は新生活にフォーカスを当てたプロモーションを行うのが長年、業界の通例でした。おそらくこれは小売業であれば多くの店舗に当てはまるはず。ただ、改めて過去の売り上げデータを細分化して見てみると、意外にもペット用品の売れ行きが良かったんです。しかもそういったペット用品を購入いただいたお客様は、ほかの商品を一緒に購入されているケースが多いことがわかりました。今までは前例に従って疑うことなく “新生活押し”でしたが、そういった分析結果からペットを飼っている方に向けたCMを作ってみたり。これではデータ分析によって新たな発見があったというわかりやすい例ですね。

『リテールDX 2024』, p.26

流れはこうです。
・3月のプロモーションは、長年、新生活にフォーカスしたものを行っていた。
・しかし、改めて過去の売り上げデータを細分化して見てみると、ペット用品の売れ行きが良かった
・そこで、ペットを飼っている方に向けたCMを作った

ここでのポイントは以下であると考えました。
・通例(想定)をもとに施策が実施されていた
・データにより、その通例(想定)があっているのかどうかを確認できた

プロセスパターンによる表現

分析にあたっては、この事例がどのようなプロセスで構成されているのかに着目します。具体的には、いくつかのプロセスのパターンで構成されると考えます。

プロセスのパターンとしては、現時点は、以下を特定しています。
・集計の動機を生み出すプロセス
集計のプロセス
・調査の動機を生み出すプロセス
・調査のプロセス
・解釈の動機を生み出すプロセス
・解釈のプロセス
・知識を生み出すプロセス
 ・比較のプロセス
  ・非課題抽出プロセス
  ・課題抽出プロセス
・非課題抽出の動機を生み出すプロセス
・機会を探す動機を生み出すプロセス
・機会となる仮説を生み出すプロセス
・機会となる仮説を検証するプロセス
・想定を生み出すプロセス
・仮説を生み出すプロセス
 ・存在を期待する仮説を生み出すプロセス
 ・施策の実行結果を期待する仮説を生み出すプロセス
・仮説を検証するプロセス
 ・存在を期待する仮説を検証するプロセス
 ・施策の実行結果を期待する仮説を検証するプロセス
・施策案を生み出すプロセス
・疑問を生み出すプロセス
・疑問に対する仮説を生み出すプロセス
・疑問に対する検証方法を生み出すプロセス
・疑問に対する仮説を検証するプロセス
・施策を生み出すプロセス
・施策案を施策に具体化するプロセス
・施策の仮説を生み出すプロセス
・施策を実行するプロセス
・施策の仮説を検証するプロセス

これらのプロセスパターンの特徴の一つは、「分析」という言葉を使っていない点です。これらプロセスパターンの部分的な組み合わせのいくつかをデータ分析と我々は呼んでいるのではないか、という仮説です。

今回の事例でもこれらのプロセスで表現できるのかを確認していきます。表現できなければ、表現できるプロセスを特定し修正していきます。

事例の表現

分析する事例を再掲します。

ユニークなところでいえば、3月は新生活にフォーカスを当てたプロモーションを行うのが長年、業界の通例でした。おそらくこれは小売業であれば多くの店舗に当てはまるはず。ただ、改めて過去の売り上げデータを細分化して見てみると、意外にもペット用品の売れ行きが良かったんです。しかもそういったペット用品を購入いただいたお客様は、ほかの商品を一緒に購入されているケースが多いことがわかりました。今までは前例に従って疑うことなく “新生活押し”でしたが、そういった分析結果からペットを飼っている方に向けたCMを作ってみたり。これではデータ分析によって新たな発見があったというわかりやすい例ですね。

『リテールDX 2024』, p.26

わかりやすい要素からプロセスで表現していきます。

以下のようなプロセス要素として解釈できると考えました。
集計のプロセス:3月の商品カテゴリごとの売上データの集計結果
・非課題抽出プロセス:ペット用品の売れ行きが良い

ここで「非課題抽出プロセス」は集計結果から、比較をもとにして何らかの知識を得るプロセスです。
 ・比較対象1:新生活に関わる商品の売れ行き
 ・比較対象2:ペット用品の売れ行き
 ・知識:ペット用品の売れ行きが良い

新生活に関わる商品として表現してよいのかどうかはわかりませんが、ここではそのように捉えました。また、「売上」と「売れ行き」は厳密には異なるかもしれませんが、ここでは売れ行きとして比較できるものととして捉えました。

次に進みます。集計するには、集計の動機があると考えます。集計に至る前のプロセスを考えてみます。以下のようなプロセス要素として解釈できると考えました。

想定を生み出すプロセス:3月は新生活に関わる商品が最も売れる
・仮説を生み出すプロセス:3月は新生活に関わる商品が最も売れるという想定は正しいのだろうか
集計の動機を生み出すプロセス:集計しなければ仮説の検証ができないため

ここでは、3月は新生活に関わる商品が最も売れる、と想定していると解釈しました。「最も」どうかは記事からは読み取れませんが、議論を進めるためにそのように解釈します。「最も」と仮に設定しないと、他の商品も3月には売れることは売れるためです。

なお、前回の記事で議論したように、「想定を生み出すプロセス」と「仮説を生み出すプロセス」には時間軸として隔たりがあります。想定自体は、今回の集計を行う前から存在しており、その想定で何らかの施策が行われていました。前回の記事での考察が今回の事例にもあてはまるのかどうかは、後に議論します。

最後のプロセスです。仮説の要素が追加されましたので、仮説検証を行うプロセスも追加します。
・仮説を検証するプロセス:3月は新生活に関わる商品が最も売れるという想定は誤っていた。

図の下にこの要素を追加しました。

仮説を検証するプロセスは、インプットとして非課題知識と仮説を受け取り、仮説の検証結果をアウトプットします。

なお、事例の記述からは、ペット用品の売れ行きが最も良いかどうかはわかりませんが、最も良いと解釈しました。

事例としては、この後、CMを作成といった施策の記述が続きますが省略します。

今回は以上となります。

考察

いくつかの考察を行います。
・想定の要素の特徴の検証
・データの役割

想定の要素の特徴の検証

今回、想定の要素がある事例を扱いました。

前回の記事では、想定の要素がある場合の特徴として以下の3つがあることを特定しました。今回の事例でもこの特徴が存在するのかを検証します。
1.想定と他の決定との依存性:想定をもとに、何か別の決定が行われている。想定が正しくなければ、その別の決定の妥当性に影響を与える。
 前回の例:出入り口の流入数を想定して、店舗のレイアウトが決定されている
2.想定時の検証困難性:想定は、その想定をする時点では、その想定が正しいのかを確認できるとは限らない。
 前回の例:出入り口の流入数を確認したいが、実際に店舗をオープンしないとわからない。
3.想定後の検証可能性:想定は、特定の条件が揃ったときには、検証可能な想定となっている可能性がある。
 前回の例:実際に店舗をオープンしており、映像カメラを設置し、流入数の計測が行える。

想定と他の決定との依存性
今回の事例では当てはまります。しかし、想定に依存している期間は、前回の事例とは異なります。プロモーション施策は、実施すれば、終わりになるためです。

このことからは、少なくとも2種類のケースが存在すると考えられそうです。
1.想定に依存したままになってる決定
 前回の例:出入り口の流入数を想定して、店舗のレイアウトが決定されている
2.想定に依存して行われる決定
 今回の例:3月は新生活に関わる商品が最も売れると想定して、プロモーション内容が決定されている。

想定時の検証困難性
今回の事例では当てはまります。3月に何が売れるのかは、売ってみないとわからないためです。

想定後の検証可能性
今回の事例では当てはまります。実際、売り上げデータを見ることで検証ができました。

データの役割

今回の事例はデータ分析なのでしょうか。データ分析の定義自体を模索しているのが本記事の内容ですので、定義自体は扱いませんが、データの役割に関しては、過去の記事では以下のものを挙げていました。
・仮説を確認するため
・仮説をつくるため
・課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)
・施策の検証のため(実験結果の分析のため)
・意思決定のため

これら各項目自体の定義にも曖昧さがありますが、今回に事例がこれらの役割のどれに当てはまりそうなのかを練習として考えてみます。

仮説を確認するため
今回最も当てはまりそうなのはこれだと思われます。3月の売上データをみて、新生活に関わる商品が最も売れているのかを確認しました。

仮説をつくるため
当てはまりません。データをみて、仮説を作ったわけではありません。

課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)
当てはまる可能性があります。想定が誤っていれば、課題や問題点があるという見方もできなくはありません。

施策の検証のため(実験結果の分析のため)
当てはまりません。施策を行った結果のデータを見たわけではありません。

意思決定のため
当てはまらないと思われます。意思決定のため、というのは非常に汎用的な言葉であるため、この言葉の意味を明確にする必要があります。ただ、今回、3月の売上データをみて、結果として、プロモーション内容を決めたという捉え方もできます。

「仮説を確認するため」と「課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)」の区別は少し曖昧でしたので、もう少し考えてみます。組み合わせを考えてみます。
1.「仮説を確認するため」 かつ 「課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)」
2.「仮説を確認するため」のみ
3.「課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)」のみ

おそらく、話をややこしくしている原因は、想定という存在です。正確には、想定に依存して既に何か別の決定が行われているというプロセスです。これが1のケースにあたります。

2のケースは、設定した仮説を確認するのみです。想定としていないため、仮説は確認されるプロセスが存在できます。たとえば、「カレールーは福神漬けと一緒に購入されることが多いのではないか」という仮説です。このような仮説はデータにより確認できます。確認後、実際にそうであったなら、それに基づいて施策が行われます(クロスMD施策)。

3のケースは、仮説なくデータを見る場合です。たとえば、店舗間での比較をもとに、課題となる店舗を見つけるなどです(カレールーの売上点数の比較など)。この場合、ある店舗を指定して仮説は設定しないと思われます(店舗Xは、カレールーの売上点数が他店舗より低いのではないか、など)。

まとめ

今回は、ホームセンターでの売り上げデータを使った事例をみました。小売業においては、3月は新生活にフォーカスした施策行うことが通例となっているのですが、その通例をデータで改めて確認したという事例です。確認結果としては、意外にもペット用品の売れ行きが良いことが判明したというものでした。

次回は、ECサイトで収集しているデータをもとにしてリアル店舗の品揃えを変えるという事例を分析します。

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