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小売業におけるデータ分析・活用の歴史と動向を調べていく【2024年3月31日更新】

分析屋の下滝です。

最近、小売業でのデータの役割に興味があって、何冊か本を(途中まで)読んだり小売の雑誌を読み始めたりしました。

現状でなんとなく感じているのは、結局、小売業(スーパーやドラッグストアなど)は、どこまでデータを活用できているのだろうか、ということです。基礎的な活用から高度な活用までです。

同時に、いつごろからデータが活用されるようになったのかの昔話にも興味が出てきました。

ということで、本記事は、データの活用に関わるものを中心にして歴史を調べながら、当時に発売された本や、生成AIといった今後の動向にも触れていく内容にしたいと思います。まだ内容が薄いですが、随時更新していきます。

1970年代(POSの開始)

小売業でのデータ活用は、おそらくPOSシステムの導入がきっかけとなっていると考えられます。POSシステムは、1974年に米国のオハイオ州のスーパーマーケット「マーシュ」で導入されたのが最初だと言われているそうです[1]。日本では、1978年に埼玉県の食品スーパーで導入実験されたそうです。

1980年代

POSシステムは、1982年には、セブンイレブンで本格導入されました[1]。したがって、POSデータを用いたデータ分析はこのころから可能となったと考えられます。

実際、公益財団法人流通経済研究所は、1980年代からPOSデータ活用に関する研究やコンサルティング、教育を行ってきたそうです[1]。

『実践POSデータ活用法―食品・雑貨から衣料品まで』が1987年に発売。

『POSデータ経営―事例13社』が1989年に発売。主にPOSデータ活用が解説されています。また、次節で述べるID-POS(会員カード)のことかは分かりませんが、IDで顧客を管理することには少し触れられています(本文中では、IDカードやクレジットカードと呼ばれています)。

1990年代(ID-POSの開始)

1995年に、テスコがカード会員プログラム(ID-POS、FSP)を開始しました[2]。これまでのPOSデータでは、何が売れたのかはわかっても、誰が買ったのかは分かりませんでしたが、ID付きPOSの出現により、誰かが買ったのかもわかるようになりました。と同時にIDを軸にした分析の幅が広がったと言えます。

日本では、たとえば、山梨県のスーパーマーケット「オギノ」が1996年に顧客ポイントカードを導入したようです[2]。


業界動向:ネットスーパーの開始
ID-POSではないですが、日本における小売での別の取り組みとしては、ネットスーパーが1990年の後半から開始されたとされます[6]。本格的にスタートしたには、2010年前後とされます[7]。ここでネットスーパーの話をしたのは、2023年においてもネットスーパーの取り組みが一つのテーマとなっているためです[6]。


『船井総研の客単価アップ大革命』が1995年に発売。


2000年代

『POS・顧客データの分析と活用』が2003年に発売。ID-POSの分析についても触れられています。

『お客様が教える「売れる商品」の見つけ方』が2004年に発売。

『マーケット・セグメンテーション―購買履歴データを用いた販売機会の発見』が2008年に発売。

『なぜこの店で買ってしまうのか』が2009年に発売(原著は2008年。改定前は2000年)。ショッパー(購入前の来店客)がどのような行動をするのかを扱う内容です。

2010年代(ショッパーマーケティング、ID-POSの分析)


業界動向:ネットスーパーの本格的なスタート
ネットスーパーが2010年前後から本格的にスタートしたそうです[7]。


業界動向:ID-POSを活用できている企業数
2014年に発売の『「考える営業」の教科書---サプライヤーが小売業と取り組む実践的方法』によると、「ID-POSが導入され始めて10年以上経つが、小売業としてその情報を本気で分析し運用レベルで有効活できている小売業はほんの数企業ではないかと思う。」と書かれています。


2010年代には、ショッパー理解やID-POS活用の書籍が多く発売されました。

『「買う」と決める瞬間』が2010年に発売(原著は2009年。翻訳されていませんが第2版が2016年)。

『買い物客はそのキーワードで手を伸ばす』が2011年に発売。

『ショッパー・マーケティング』が2011年に発売。

『リテールデータ分析入門』が2014年に発売。

『「考える営業」の教科書---サプライヤーが小売業と取り組む実践的方法』が2014年に発売。POS、ID-POSに関わるのは10ページほどですが、解説があります。

『ID-POSマーケティング』が2015年に発売。

『店頭マーケティングのためのPOS・ID-POSデータ分析』が2016年に発売。

『売場を科学する』が2016年に発売。

『リアル店舗の逆襲』が2018年に発売。店舗(小売)、メーカー、卸でのAIの活用について。

2020年代(DX、生成AI、リテールメディア)


業界動向:スーパーマーケットにおけるID-POSの活用
関西圏で約160店舗を展開するスーパー万代が、このころからID-POSデータを中心とした顧客データの分析に本腰を入れ始めたと思われます[3]。万代は設立が1962年であり、昔から存在するスーパーでありますが、ID-POSデータを活用してこなかったことがわかります。



2021年

『POSデータ活用検定テキスト 第1版』が2021年に発売。流通経済研究所が行っている検定のテキストとなります。

2022年

『リアル店舗は消えるのか? 流通DXが開くマーケティング新時代』が2022年に発売。

2023年(生成AI)


業界動向:小売におけるデータ活用
2023年のダイヤモンドチェーンストアの記事で、郡司昇氏は「かつての小売業はデータがあってもそれを活用するという考えが足りていなかったが、最近になってようやくその準備ができ始めている」と述べています[4]。


業界動向:スーパーマーケットにおけるID-POSの活用
滋賀県と拠点として約160店舗を展開する平和堂では、DX推進を行う上でOne To One マーケティングの実現を視野に入れています[5]。ID-POSのデータを用いて、顧客の嗜好や属性じ応じた最適なアプローチや提案の実践を行っていくようです。2023年でもまだID-POSデータ活用はこれからのようです。


業界動向:販売革新でのネットスーパー特集
販売革新 2023年 10月号で、ネットスーパーの未来という特集が組まれています。データ活用の観点では、リアル店舗とネットスーパーの顧客IDが紐づくのか、紐付いたとしてどのような施策が行われているのかの具体例はありませんが、何らかの活用が出てくると思われます。


書籍

『ID-POSデータ活用検定(基礎・カテゴリー分析編)テキスト [第1版]』が2023年に発売。流通経済研究所が行っている検定。2023年度から検定が開始。

『デジタルマーケティングの教科書: データ資本主義時代の流通小売戦』が2023年に発売。

『生成AIは小売をどう変えるか?』が2023年に発売。

『小売り広告の新市場 リテールメディア』が2023年に発売。リテールメディアは、小売業にとっての新たな収益源となる概念です。マーチャンダイジングのためにデータを使うのではなく、小売が所有する顧客データとメディアを用いて広告を出せるようにしてメーカーに販売するモデルです。

2024年(生成AI)

2024年は、生成AIがどのように適用されるのかに注目が集まりそうです。日経クロストレンドは小売における生成AIの特集をしています。

小売りの接客を変える日立のスゴ腕「生成AIアバター」 販売増に寄与で」では、接客への適用が紹介されています。生成AIを組み込んだ接客アバターです。店頭に設置されたデジタルサイネージ内に表示されるアバターです。

AIでクーポン出し分け、顧客単価20%向上 サイバーエージェント」では、広告クリエイティブの作成での生成AIの適用、ボットへの生成AIの適用、ID-POSを分析する際の精度を高めるための生成AIの適用が紹介されています。

生成AIで商品データベースを共通化 顧客インサイトの発見も可能に」では、J-MORA(業界共通商品マスター)での生成AIの適用例が紹介されています。
・J-MORA登録時のチェックを生成AIで行う
・J-MORAのデータベースにある商品情報などを各社の商品マスターに合わせて変換する処理を生成AIで行う
・商品登録の際、手で文字を打ち込むのではなく、商品そのものの画像や商品に貼られた内容物などの情報を撮影し、その画像を生成AIで解析して、商品情報をJ-MORAに登録する

他には、実店舗ごとのID-POS購買データや来店客の属性データなどを生成AIに学習させ、顧客のインサイトを分析するような使い道も紹介されています。

結局、生成AIは小売りをどう変えるのか 「売れる店」のノウハウ移植」では、次のような適用案・例が紹介されています・
・顧客からの問い合わせ対応への生成AIの適用案
・売り上げデータを生成AIで分析する案

まとめると、次のような適用例や案がありそうです。
・広告クリエイティブの生成
・接客対応(生成AIと顧客)
・顧客からの問い合わせ対応(生成AIと担当者)
・ID-POSデータの分析
・登録データのチェック
・データ変換処理
・データ登録

他の事例です。

ロレアルの事例です。生成AIを活用した対話サービス「Beauty Genius(ビューティージーニアス)」は、単なるチャットボットではなく、個人の詳細な診断に基づきパーソナライズされたアドバイスができるチャットボットとのことです。

書籍

『月間マーチャンダイジング』 2024年2月号にて、『優良顧客を呼び寄せる!ベビー用品売場進化論』としてベビー用品のカテゴリーをID-POSデータを用いて分析する事例が出ています。

『リテールDX 2024』が発売。


まとめ

ID-POSに紐づくデータの活用は、まだまだ浸透しきっているようではなさそうです。また、ネットスーパーなど古くからあるオンラインの販売チャネルもまだまだ枯れてはおらず、さらには、生成AIといった新たなテクノロジーの出現が小売でのデータの活用の範囲をさらに広げる動きが今後も進みそうです。


参考文献

[1] POSデータ活用検定テキスト, 2021
[2] ショッパーマーケティング, 2011
[3] ダイヤモンド・チェーンストア 2023年8月1・15日号 特集●万代強さの秘密, 2023
[4] ダイヤモンド・チェーンストア 2023年4月1号 特集●勝つDXの本質, 2023
[5] ダイヤモンド・チェーンストア 2023年6月1号 特集●平和堂全方位改革!, 2023
[6] 販売革新 2023年 10月号, 2023
[7] インストア・マーチャンダイジング 第2版, 2016

その他参考

コネクテッドショッパー最新動向 第5版, 2023

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