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【カナダ横断記③】極寒の中、汚物で暖をとる

どもー。
分析太郎です。

様々な業種の市場分析や、
ビジネスアイデア考察を
生業にしています。

学生時代、
大学を休学し、
カナダを西から東へ
自転車で横断しました。
5ヶ月で8,000km走りました。


現地で購入した自転車


大学の広報誌に
寄稿した記事があったので、
noteにも載せます。

テーマは、
「極寒の中、汚物で暖をとる」
です。
それではどうぞ。


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8月28日。ついに目的地である最東端の街セント・ジョンズに到達した。せっかく横断できたのに達成感が皆無だったことには自分でも驚いた。帰国日までまだ数日残っていたので、街を散策したり図書館で本を読むなどして空いた時間を過ごした。



カナダの最東端から大西洋を望む


9月1日。この日は日中曇りで気温も15度程度と肌寒く、雨こそ降ってはいなかったものの、華やかな色彩の建物に飾られた街は全体的にどんよりとしていた。連日同じキャンプ場に泊まっていたのだが、お金がもったいなかったのでこの日は町の中心部から少し離れてたまたま見つけた空き地に野宿をすることにした。



セントジョンズの写真。晴れの日はめちゃ美しいです。


夜9時過ぎ、テントの中で一人で横になっていると、急に嵐が吹き荒れはじめ、大雨が降りだした。テントはバタバタと揺さぶられ、鋭い雨粒が強く打ち付ける。気温も明らかに低くなっていた。「こんな状態じゃ寝れないよ」と独り言ちながら、耳栓をして何とか眠りに落ちるよう努めた。


ところがさらに不幸なことに、しばらくすると下から雨水が浸み始めた。「最悪だ…」とは思ったものの周りに泊まれるような宿はなく、仮にあったとしてもお金がもったいないし、何よりテントの外に出たくない。雨水で震えるよりも、冷えた体が冷たい風にさらされることの方が何倍も嫌だった。それに移動も面倒くさい。私は「たった一晩夜を明かすだけだ」と覚悟を決め、心を無にして眠りに落ちるよう意識した。


それからしばらくは眠ることができていた。だが、間もなくあまりの寒さにハッと目を覚ましてしまった。気付いた頃には、テント全体が水深15cmくらいの巨大な水たまりに沈んでいた。私は全身を半分冷たい雨水に浸して眠っていたのである。


私の体は寒さのあまりもはや言うことを聞かなくなっていた。ただでさえ末端冷え性だというのに、このような極限の状態とあっては、手足はおろか、寝返りを打つことさえままならない。何でもいいから暖かいものが欲しい。日本からカイロを数枚持ってきてはいたが、それらは全て旅の途中で使い果たしてしまっていた。まさに万事休すである。


しかしさらに不幸は続く。この極限の状況で、私は尿意を催したのである。


「ハァ~…。」今までの人生で一番深いため息をついた。催してしまった以上、発散しないわけにはいかない。ただ依然として外には強風が吹き荒れているし、そもそも立ち上がる体力がない。私はとりあえず翌朝まで我慢してみることにした。だが、尿意を数時間我慢できるはずもなく、1時間半くらい経過したところで私の膀胱は破裂寸前に達した。


小便を出さなければならない。だがテントの外には出たくない。激しい葛藤に苛まれる中私が出した結論は、その日買っていた700mlのミネラルウォーターの中身を全て流し、小便をペットボトルの中に発散することだった。
私は芯まで凍えた体を何とか動かし、固まった腕で荷物の中からミネラルウォーターを取り出して、テントのチャックを少し開けて水を全て外に流した。ペットボトルを右手に構えて、私は溜まりきった小便を全てその中に注いだ。ペットボトルには私の小便があふれんばかりに注ぎ込まれた。全て発散し終え、こぼれないように堅くキャップを閉じた。


そこでハッと気が付いた。私は意図せずして、人肌の温もりの湯たんぽを自前で作り上げていたのである。これを稀有の僥倖と言わずして何と言うだろうか。私はわき目も降らずに雄叫びをあげ、血を分けた、ではなく小便を分けたその湯たんぽを、我が子の如く抱きしめた。極限の不幸の最中にあって、私はかつて味わったことのない幸福を感じていた。その例えようのない温もりは私の心に入り込んでやがて全身を包み込んだ。


だが次第に、湯たんぽは魂を抜かれるかのようにしてその温もりを失っていった。私は大声で「俺を独りにしないでくれ!」と、大粒の涙とズルズルの鼻水とともに慟哭した。外では未だ嵐がザーザーとけたたましい音を立てて吹き荒れている。ついに湯たんぽはその温もりを完全に失い、ただの冷たい小便になってしまった。私はとても大切なものを失ったような気がした。


結局嵐が止むことはなく、その晩は日が昇るまでテントの中で雨水に浸かって過ごした。冷たさで意識が朦朧としていたので、ある意味眠っていたも同然だった。


翌朝7時、「俺が最強だ!異論は認めない!」と叫び散らし強引に自分を奮い立たせ、5kmくらい先にあるマクドナルドへ開店と同時に突撃した。ビチョビチョの服装で現れた私を見て目を丸くしていた店員さんの顔は今でも覚えている。そこで飲んだホットのミルクティーが、芯から凍った私の体を内側からゆっくりと溶かしていった。


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以上になります。
いかがでしたでしょうか。
カナダ横断記はこれで終わりです。
他にも山ほどエピソードありますので、
気が向いたら更新します。

最後までお読みいただき、
ありがとうございました。

あ、本業は市場分析屋です。
色んな業種の市場分析やってます。


モチベUP記事たくさん書いてます。


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