【映画】「ラインゴールド」感想・レビュー・解説

なかなかおもしろかった。やっぱり、実話が基になっている作品は面白い。本作は正直「冗談みたいな話」であり、フィクションだったらまず受け入れられないだろう。何せ、「銀行強盗で捕まり禁錮8年を食らったのに、獄中でラップを録音し、刑務所にいる間にCDを発売、今ではドイツでは知らぬ者はいないラッパー&音楽プロデューサーになっている」というのだから。おいおい、ってな話だろう。

物語は2010年シリアで始まる。世界中を逃げ続けていたジワ・ハジャビ(後のカター)は、ここで捕まった。金歯を抜かれ、拷問を受け、満身創痍である。

そこから物語は1979年のイランに移る。両親の話だ。有名な作曲家の父と、テヘラン出身のクルド人の名家出身の母親は、父親が指揮、母親が奏者の1人として参加した演奏会ホメイニ派からの襲撃を受ける。イスラム教を厳格に守る集団で、「娯楽は許されない。家に帰ってコーランを読め」と言いながら銃を乱射する。この事件を受け、戦士として闘うことになった夫妻は、その戦闘の最中、ジワを産んだ。

その後一家は拘束された。ジワの最初の記憶は、刑務所である。父親は幾度も拷問を受けたが、高名な作曲家であることが伝わり、赤十字の助けでどうにかヨーロッパに逃れることが出来た。

ヨーロッパでは父にピアノを習うも、短気な父は教えるのに向いていない。ピアノの教師につき、ジワは大人になるまでピアノを習い続けた。その後悪い仲間とつるみ始め、ダビングしたポルノを売ったり、薬物の販売に関わったりしている内に逮捕されてしまう。その後、幾度かの逮捕を経て、彼はオランダに渡った。友人で実業家のミランを頼ったのだ。

そこからは音楽学校に入学し、音楽のプロデュースを学ぼうとしたのだが……。

冒頭で「事実に着想を得た物語」と表示されるし、公式HPにも「カターの自伝をもとに、大胆に脚色を施した驚愕の実話」と書かれているので、どこまで事実なのかは分からない。ただ、物語のメインとなる部分、つまり「強盗し捕まり、獄中でレコーディング、今ではスーパースター」という部分は間違いないようだ。それだけで、実話としての破壊力は十分だろう。

さて、確かに実話としてはかなり破天荒だし、映画としても面白かったのだけど、やはり「面白かったなー」以上の作品ではないとも感じる。いや、何を望んでいたというわけでもないのだが、「獄中からスーパースター」という部分が異常なだけで、他は大体「まあそうなるよね」という展開だったなという感じもする。まあ実話だから別にそれでいいのだけど、本作はとにかく、「こんな生き方をしてる奴が、最終的にスーパースターになるんだよな」という知識ありきで観る感じかなと思う。もしその事実を知らずに映画を観ていたら、と想像すると、もしかしたらちょっと「退屈」に感じられたかもしれない。

あとは、こういう「成り上がり的な物語」って、「不遇の環境に生まれ、環境も悪かったけど、頑張ってどうにかした」みたいな感じが多いように思うけど、本作の場合ちょっと違う。もちろん、両親はかなり苦労したし、ジワ自身もクルド人であることで苦労したとは思うが、それでも、父が有名な音楽家だったお陰で、クルド人にしては恵まれた環境にいたと言えるかもしれない。少なくとも、彼が「悪の道」に進まなきゃいけない理由は特になかったはずだ。

そういう中で彼は、自らの意思で悪い道へと進み、そこでかなりのクズっぷりを見せる。やはり物語の王道としては、「苦労したけど頑張ったよね」的な話の方がグッと来るが、本作の場合はそういうセオリーは完全に無視しているのだ。まあだからこそリアルだとも感じるわけだが、ジワ・ハジャビという人間のことはあまり好きにはなれないな、という感じだった。

ってなもんかな。

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