【映画】「ソウルメイト」感想・レビュー・解説

「ソウルメイト」という単語は僕にとって、割と馴染みのある言葉だ。年下の女友達とよく、その話になるからだ。彼女はよく「ソウルメイトが欲しい」と言っている。そして一応、僕もその「ソウルメイト枠」に入れてもらえている、ようだ。ありがたい。

人との関係には時々、「恋人」「家族」「友人」みたいな名前ではしっくり来ないことがある。どういう名前で呼んでも、その人との関係性を上手く表しきれていないなぁ、と感じることがあるのだ。そういう時に、「ソウルメイト」という単語はとても有用性が高い。確かに、「ソウルメイト」としか表現しようのない関係性がある。

本作のミソとハウンもそんな2人だ。恋人でも家族でもないし、友人というにはちょっとしっくりこない。だから「ソウルメイト」。お互いがお互いをそんな風に認識出来ることは、とても奇跡的なことだと思う。

つい先日のこと、その年下の「ソウルメイト」が、ちょっと淋しげに語っていたことがある。色々と事情があって、彼女が「ソウルメイト」だと感じていた人と、簡単には会えない状況になってしまったのだ。彼女は、そういうケースは自分の人生において初だと言っていた。

「ソウルメイト」を見つけるのは、本当に難しい。恋人、家族、友人の場合も同じと言えば同じだが、自分が相手のことを「ソウルメイト」だと思っていても、相手もそう思ってくれているか分からない。それに、そもそも「ソウルメイト」という関係名は一般的ではないから、「そんな関係性が成立し得る」ということ自体が認識されていない可能性もある。

それに、本作で描かれている通り、「ソウルメイト」だからと言って、トラブルと無縁というわけにもいかない。もちろん、「ソウルメイトだからこそ、乗り越え、修復できた」と捉えるべきなのだろうが、お互いに対する想いが強いために、すれ違ってしまうこともあるのだ。

作中でハウンがミソに向かって、「あなたのことを好きなのは誰? あなたのことを好きなのは、私しかいない!」と叫ぶ場面がある。このシーン、状況を客観的に捉えるとなかなかの修羅場であり、「あなたのことを好きなのは、私しかいない!」なんていうセリフが出てくるような場面ではない。それとは真逆の言葉を突きつけてもいいようなシーンなのだ。しかしそういう状況でもハウンは、色んな感情をギチギチに込めつつではあるが、ミソに向かって「私しかいない!」と言ってのけるのだ。僕にはこのシーンが、一番「ソウルメイト」っぽさを感じさせられた。

年下の「ソウルメイト」に言われるまで、僕の中には「ソウルメイト」という概念は存在しなかったけど、彼女とそういう話をして以降は、僕もはっきりと「ソウルメイトを探している」という認識が出来るようになった。何がどうなれば「ソウルメイト」と言えるのかなんてことは別にない。究極的には、「お互いがお互いのことをそう思っていることを、お互いが了解している」ぐらいの定義になるんじゃないだろうか。言語化すると、メチャクチャ難しいなと改めて実感させられる。

それでも、どうにか、「ソウルメイト」を追い求めていこうと思う。

内容に入ろうと思います。

アン・ミソはある日、美術館のキュレーターから連絡をもらい、閉館後の美術館に案内された。そこにあったのは、巨大な鉛筆画。写真と見間違うかというほどのクオリティで、公募展に送られてきたものだという。その絵は大賞を受賞し、美術館は専属契約を結びたいと考えているのだが、作者名が「ハウン」という以外の情報が分からなくて困っている、というのだ。

その話が、どうミソと関係するのか。実は、その絵に書かれているのが、高校時代のミソなのだ。

またキュレーターは、「夏の銀河 ハウン」というブログも探し当てていた。そこには、ミソとの思い出も綴られている。当然、ミソなら現在のハウンの居場所を知っているはずだ。だから協力してもらえないか、というのだ。

しかしミソは、「子どもの頃に少し遊んだだけ」とつれない反応をする。キュレーターには、ハウンとは長く連絡を取っていないと話した。

そこから、彼女たちの出会いからの物語が、ブログの記述を辿るような形で描かれていく。

済州島の小学校に通っていたハウンは、ある日ミソと出会った。転校生としてやってきたのだ。ハウンの隣の席に決まったのだが、ミソはバッグを置いたまま教室から逃げ出してしまう。そんな風にして、2人の関係性は始まった。

ミソは複雑な家庭で育ち、「ソウルの彼氏が呼び寄せてくれる」と言い募る母親に従って転校ばかり繰り返してきた。だから、学校は嫌いなのだ。ある日、彼氏の元に行くのだろう、母親がソウルに戻る決断をするが、ミソは済州島に残ることに決める。ハウンとの友情を選んだというわけだ。

それから2人はずっと仲良しだったが、高校生になり、ハウンにジヌという恋人が出来たことで、ちょっとずつ関係性に変化が出始める。そしてしばらくして、ミソがその時に付き合っていた彼氏と共に、高校を辞めてソウルへ行く決断をするのだ。港で別れを惜しむ2人。しかしその時ハウンは、ミソのある「秘密」に気づいてしまう……。

というような話です。

「女性同士の人間関係が理解できる」などと主張するつもりは全然ないのだけど、でも観ていて、「女性同士の関係っぽいなぁ」と感じた。特に、「何事も無かったかのようにハグする」みたいなシーンは、僕がイメージする「女性同士の関係」という感じだった。なんとなくだが、男同士の場合、そこに何かワンアクション無いと「関係修復」みたいな状態にならない印象があるが、女性同士の場合は、そういうワンアクション抜きでそういう状態になれる感じがしていて、的外れかもしれないが「分かるわー」と感じた。

とにかく、ミソが良い。僕は全然知らなかったけど、ミソを演じたキム・ダミは、メチャクチャ話題になった『梨泰院クラス』に出ている人みたいで、かなり有名な人みたいだ。ホント、色んな場面で絶妙な演技をする。ぶっ飛んだハチャメチャさもしっくり来るし、落ち着いた雰囲気も馴染んでいるという感じ。どっちの雰囲気にもするっと入り込める感じがちょっと凄いなと思う。1995年生まれってことは、今29歳。今回の役では、高校生から30代後半までを演じているのだけど、どの年齢も全然違和感がない。凄いもんだなぁ。

キム・ダミと比べるとどうしても、ハウンを演じたチョン・ソニは劣って見えてしまうが、それでも、ミソとハウンの素敵な関係性をとてもよく演じていると思う。公式HPにかかれていたが、マンガ『寄生獣』を原作にしたNetflixドラマ『寄生獣 -ザ・グレイ-』の主演を務めるのだそうだ。そう考えると、今後日本でも認知度が上がっていくんだろうなぁ、という感じがする。

さらに、全然知らなかったが、本作は、以前観てメチャクチャ良かった映画『少年の君』に携わった監督の単独デビュー作のリメイク作のようだ(公式HPの書き方が微妙で、ちょっと分かりづらいが)。『少年の君』もメチャクチャ良かったからなぁ。とにかく、人間関係の機微みたいなものを描き出すのがとても上手いと感じた。

本作では、ミソとハウンのぶつかり合いも描かれるし、まあ普通に考えてそういう物語の起伏は必要とされるだろうが、個人的には、ミソとハウンが仲良くワチャワチャやっているだけでも結構観られる物語になるような気がする。『架空OL日記』みたいな雰囲気で。それはそれで観てみたい気がする。それぐらい、2人の「なんてことのない日常」の描写が、とても良かった。

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