【映画】「マルホランド・ドライブ」感想・レビュー・解説
いやー、久々にまったく分からず、ネタバレサイトを熟読した。しかし、まったく分からなかったのだけど、観ている間も面白かったし、ネタバレサイトを読んで改めて面白かった。そんな、なかなか不思議な作品である。
しかし、僕が読んだネタバレサイトの解釈も「1つの仮説」なのだろうけど、「なるほどなぁ」と思ったのと同時に、「それはまた凄い構成の物語だな」とも感じた。ただそういう作品に仕上がったのには、1つ外的な要因もあったようだ。本作は元々「TVシリーズ」として制作が決まり、パイロット版も作られたが、TVシリーズの話はお蔵入りとなった。その後、フランスの映画配給会社の資金提供を得て映画化されたらしいのだが、元々TVシリーズのつもりで考えていたため、「映画の尺に収めるためのオチ」みたいなものを考えていなかったそうだ(と、僕が読んだネタバレサイトには書いてあった)。そのため、パイロット版として既に撮影済みだった部分から「どうやって物語を展開できるか」と考えて、本作のような話になった、らしい。そうだとしたら、「よくもまあ、後付でこんな物語を作り上げたものだな」とも感じる。
しかし、やっぱり凄いなと思うのは、「ストーリーが全然理解できないのに面白い」と感じたことだ。僕は本作を、1週間限定のリバイバル上映で観たのだが、劇場に入る前に特典のチラシをもらった。裏面には、「デイヴィッド・リンチによる10個のヒント」という文章があり、いつものことながら『マルホランド・ドライブ』について何も知らずに映画館に行った僕は、そこで初めて「なるほど、読み解きの難しい映画なのだな」と理解した。そこで、鑑賞前にその10個のヒントを読んで、なるべく物語を理解しようと思いながら観ていたのである。ちなみに、この10個のヒントは今、ウィキペディアで見れる。
さて、にも拘らず、物語の後半に差し掛かっても、一向に「物語の核を掴めそうな気がしない」という状態だった。メインとなる筋は2つあって、1つは「カナダからやってきた、ハリウッドで女優になるためにしばらく叔母の家に住むことになったベティが、何故か叔母の家にいた、記憶を失ってしまったという謎の女性リタの記憶を取り戻す手助けをする」というもの。そしてもう1つは、「アダムという映画監督が、主演女優の選定を強要されたり、妻に不倫されたりする」という話だ。そして、この大筋の2つの話さえ、一向に繋がっていかない。
さらに作中には、「夢で出てきたカフェを見に来た男性」や「明らかに服の上から乳首が透けた女性が男2人と会話する場面」などが描かれるのだが、それらも結局何がなんだか全然分からない。大筋の2つの物語は、一応「展開が存在するパート」という感じがするが、それ以外の映像は「断片の羅列」みたいな感じで、物語の中に収まる場所が存在するように思えないのだ。とにかく意味不明だった。
でも、にも拘らず、「面白い」という感覚になるんだよなぁ。これが不思議だった。何が面白かったのかは正直よく分からないし上手く説明できないのだが、「ストーリーが意味不明なのに全然観てられるなぁ」と感じた。まあそれは、主演を務めたナオミ・ワッツとローラ・ハリングのビジュアルの強さも関係しているかもしれないが。
さて、映画を観ても自力では何も分からなかったのだが、ネタバレサイトを読んで、「なるほど、そういう理由でああいう描写が出てくるのか!」と納得していく過程もまた面白い。特に、個人的に一番納得できたのが、「アダムが主演女優の選定を強制される」という描写。本作では、この点に関する描写がかなり出てくるのだけど、正直「何なんだこれは?」としか思えなかった。しかし、「ある人物の想い」を知ることで、「なるほど、だったらそういう描写になるよな!」と納得できたのである。正直、「単に訳の分からないシーンを描いているだけ」にしか思っていなかったので、この点にちゃんと説明が付くのは驚きだった。
他にもネットで調べると色んな人が色んなことを書いているので調べてみるといいだろう。僕は正直、「考察の入口」さえ潜れなかったので、他人の考察を読んで回るぐらいしか出来ないのだが。『TENET』や『鳩の撃退法』では、割と自分なりにしっくり来る仮説をネタバレサイトを読む前に構築出来たので、本作『マルホランド・ドライブ』でそれが出来なかったのは残念だった。でも、これはマジで無理だなぁ。自力でたどり着けた気がしない。ただ、この映画の構成は見事だったし、前例ももしかしたらあったりするのかもしれないけど(例えば小説などで)、だとしても本作は、そんなアクロバティックな構成をかなり見事に乗りこなした作品と言って良いだろうと思う。
僕はあまり同じ映画を2回以上観たりしないのだけど、本作は、「繰り返し観たい」という気になるのも分かるなと思う。世の中にある「もう一度観たくなる!」的な作品って結局、「ネタ」だけで引っ張ってるみたいなところがあるから、ネタが割れてしまうと「もう一度観よう」という気分にはならないことも多い(これは小説も同じ)。ただ本作は、「よく分からないけど面白い」という感覚をもたらす作品であるため、繰り返しの鑑賞に耐え得るだろうなと思う。考察したい人は何度も観て色んな描写にヒントを探すだろうし、そうでない人も、映像や役者など様々な要素を目当てに何度も観たい気分になるだろう。
そんなわけで、久々にまったく理解できない意味不明な映画だったが、観て良かったと思える非常に魅力的な作品だった。
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