【映画】「ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家」感想・レビュー・解説

なかなか難しい映画だった。やはり、「思想と絡んだ政治やデモ」の話が出てくると、ちょっと知識不足が露呈する。

さて、例によって、ゴダールの映画は一作も観たことがない。映画を観て、『気狂いピエロ』だけタイトルを知ってたが、他はまったく。映画を観る前に持っていたイメージも特にない。ただ、「有名な監督」ぐらいの知識しかなかった。

大分変人だったようだ。「映画撮影の時にしか人と交わらない」とか、なかなか常軌を逸している。映画は、「ゴダールを撮影した過去の映像」と「ゴダールと関わりがあった者たちの現在のインタビュー」で構成されているが、ゴダールは過去にこんなことを言っていた。

『例えば駅で少年か少女に話しかけたいとするだろう。その際、私に言えるのは「映画に出ないか?」ぐらいしかない。その他のこと、例えば「君の母親は誰?」みたいな会話は、出来ない。』

ゴダールの妻だった女優(たぶん途中で離婚してるんだと思う)は、

『彼と暮らすことは難しかった。彼の沈黙と不在が不安だった。何日も、何も話さないこともある』

と言っていた。なかなかぶっ飛んでいると言える。

ただ一方で、「彼は『孤高の天才』を演じていた」と語る者もいた。「ジャン=リュック・ゴダール」という人物こそが、彼が作り上げた最高の存在なのだ、と。インタビューでは、変な返答をして相手の質問を煙に巻き、何の話をしていたのか忘れさせるが、基本的には陽気な人物だった、と。

まあ、映画を観ている限りは、そうは見えなかったけど。「いつも心ここにあらずで、私たちとは一緒にいなかった」「幸せが退屈なのね」と、決して良いとは言えない評価で彼のことを語る者が多かった。

フランスの60年代を知りたければ、ゴダールを観なければならない。そう語る人物が出てくる。また、デビュー作である『勝手にしやがれ』について、「時代の最先端」「映画の革命」「これほどの衝撃を与えたデビュー作は珍しい」と絶賛されていた。

その後、2作目を撮っている最中のゴダールの発言が面白かった。

『2作目が嫌われて、また映画を撮りたくなりたいものだ』

ゴダールは以前から、「インテリが、映画を『芸術』として認めない」ことに対して怒りを感じていたのだそうだ。そして、その怒りを映画制作にぶつけた。しかし、1作目が思いがけず世間から受け入れられてしまう。ある種の「反骨精神」こそが彼の原動力だったのだから、「嫌われて、また撮りたくなりたい」という感覚もなんとなく分かる。だから彼は2作目の『小さな兵隊』で、「アルジェリア戦争」「拷問を真正面から描く」というタブーにを描き、挑発した。

後に同じような振る舞いをしている。ゴダールは『気狂いピエロ』以降のすべての作品で、アメリカの帝国主義を批判しているという。ベトナム戦争に反対するデモにも参加したそうだ。デモへの参加がどの程度影響したのか分からないが、恐らく『気狂いピエロ』がヒットしたからだろう、ゴダールは「教皇を超え、ビートルズと並ぶほどの人気を獲得した」と評されるまでになる。しかし「そんな先例のない地位」を彼はすぐに捨てる。その後、毛沢東語録をモチーフにした映画の話が展開されるので、恐らくそのことによって人気が下がった、ということなのだろう。なかなか破滅的なのだ。

ゴダールは、「有名になること」と「忘れ去られること」の2つを常に望んでいたという。しかし、有名になるために映画を撮っていたわけではないそうだ。ある人物は、「彼は、映画の可能性の探究にしか興味がなかった」と語っている。

『映画はすべてが可能だ。
映画の規則を発見せよ。
それが私の主張だ。』

ゴダールはそんな風に言っている。常に「映画そのもの」がテーマであり、「映画とは何か」を追究し続けていた。撮影監督だったクタールと共に、様々な手法・発明を成したそうだが、まさにそれは天才の手腕だそうだ。具体的にその手法・発明が紹介される場面はなかったので、どう革命的だったのか分からないが、生涯に140本もの映画を作る原動力は、まさしく「映画の探究」そのものにあったのだろうと思う。

最後までずっとそのように撮影していたのかは知らないが、ゴダール作品に出演したことのある女優が、撮影現場の異常さを語っていた。まず、シナリオがない。じゃあ役者はどうやってセリフを口にするのかというと、耳に装着したイヤホンから聞こえるゴダールの言葉を、そのまま繰り返すのだそうだ。その女優は、「耳が塞がれ、複雑な言葉がずっと聞こえてくるから、頭が変になりそうだった」と言っていた。

映画を観ている時点では、ゴダールはまだ存命なのかどうかも知らなかったが、今調べてみたところ、去年の今頃に亡くなったそうである。「スイスで自殺幇助を受けて自発的に旅立った」という記事を今見て、そういえばそんなニュースを目にした記憶もあるな、と思った。あれがゴダールの記事だったのか。

基本的に、複雑で訳が分からなくて気が狂った人物は好きなので、本作を観てゴダールを好きになった。機会があれば、彼が監督した映画も何か観てみよう。何か劇場公開されないかな。

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