【映画】「JFK/新証言 知られざる陰謀」感想・レビュー・解説

いやー、これは面白かった!まあ、「面白かった」という感想は不謹慎かもしれないけど、面白かった。この映画1本観るだけで、「ケネディ暗殺」と「アメリカ国家」についてメチャクチャよく理解できると思う。

さて、この映画の素晴らしさは、「徹頭徹尾、証拠を基に議論が展開されていく」という点だ。映画終盤の「なぜケネディ大統領は暗殺されたのか?」の部分は、「仮説があって、そこに証拠を当てはめた」という印象が無くもないが、映画は全体として、「証拠を基に仮説を導き出す」というやり方を貫いている。その点が、とにかく素晴らしかったと思う。

しかし、まず疑問を潰しておこう。「その証拠は、一体どこから出てきたのか?」だ。本作の冒頭は、ケネディ暗殺当時のテレビ映像を使って、暗殺からオズワルドの逮捕、その後衆人環視の中オズワルドが射殺されるまでの流れがダイジェストで描かれる。そしてその後、「証拠がどのようにして出てきたのか」という話が紹介されるのだ。

しかしその話をする前にまず、ケネディ暗殺の調査がどのように行われたのかについて触れておこう。

暗殺直後から、ウォーレン委員会という名の調査委員会が作られた。色んな組織の元重鎮みたいな人たちが集まり、様々な証拠を総合して、最終的に全26巻にも及ぶ調査報告書を提出した。その結論は、「オズワルドによる単独犯」というものだった。

しかしその後、このウォーレン報告書に対する疑惑が様々に浮かび上がることになる。そのため、チャーチ委員会や下院暗殺問題調査特別委員会などの様々な再調査委員会が立ち上がり、ウォーレン報告書を再検討することになる。しかし結局、最終的には、「50万にも及ぶ全資料を、2029年まで非公開とする」という決定が下ることになる。

さて、ここからが面白い。本作『JFK/新証言 知られざる陰謀』の監督はオリヴァー・ストーンなのだが、彼が1991年に『JFK』という作品を撮った。アカデミー賞で2部門受賞するほど評価され、そのことでケネディ暗殺事件はアメリカで再び脚光を浴びることとなるのだ。

さて、明らかにこの映画の影響だろう、1992年にアメリカ議会が「JFK大統領暗殺記録収集法」を可決した。これにより、2029年まで非公開のままとされていた資料の解除が決定する。暗殺記録審査委員会(ARRB)が設置され、多額の予算と4年の歳月が与えられ、JFK暗殺事件に関する様々な資料の収集と公開を行うことになったのです。ARRBは収集したすべての資料を国立公文書館に寄贈し、これによって一般人でもほぼすべての資料を閲覧できるようになった、というわけだ。

本作で調査のベースとなるのが、このARRBが公開に尽力した、長年非公開だった機密文書なのだ。そして、これらの資料を元にして様々な矛盾を炙り出し、またその資料が示す事実を証言する人物(その多くが、本人から直接聞いた、というもの)を登場させ、その信憑性をさらに高めているのである。

ARRBはある時点で、アメリカ国内のあらゆる機関に、「JFKに関する資料をすべて提出した」という宣誓書を提出させることにしたそうだ。その際、「大統領警護隊だけが宣誓を拒んだ」という話が出てくる。その理由については別途触れられるわけだが、この事実は要するに、「大統領警護隊以外の機関はJFKに関する資料をすべて提出した」ことを示すわけで、つまり「意図的に破棄されるなどしたもの以外、現存するすべての資料がすべて閲覧可能な状態」にあることになる。その資料を駆使して、真相究明に挑もうというのが、本作の趣旨ということになるわけだ。

というわけで、映画の中で語られた話に色々と触れてみよう。

映画の冒頭では、「魔法の銃弾」と呼ばれるものが扱われる。まずはこれについて説明しよう。

銃撃犯として逮捕されたオズワルドは、銃撃現場付近に建つ教科書ビルの6階からケネディを撃ったとされている。そしてそこには、空の薬莢が3つあった。つまり、「オズワルドが単独で犯行を行った」とすれば、3発の銃弾のみで傷のすべてが説明できなければならない。

そして、そのために考え出されたのが「魔法の銃弾」だ。この銃弾は、車の後部座席に乗っていたケネディ大統領の首元から射出し喉から抜け、その後前方に座っていたコナリー知事の背中を貫通し、手首を通り、最終的に太ももで止まった、ということになっている。ケネディ大統領とコナリー知事合わせて、計7つの傷を1発の銃弾がつけた、とされているのだ。これが「魔法の銃弾」である。

証拠物件399と名付けられたこの「魔法の銃弾」は、病院職員がコナリー知事の体内から取り出し、最終的にFBIのフレイザーという人物の手に渡るのだが、この銃弾に関して実に興味深い調査がなされた。行ったのはなんと、一般人である。まさに、誰もが資料の閲覧が出来るようになったからこその新たな展開というわけだ。

さて、その一般人は何に気づいたのか。その説明のために、「証拠保全」のことに触れる必要がある。

証拠保全とは、「ある証拠品の同一性を裁判上で明らかにするために記録されるもの」である。例えば「魔法の銃弾」の場合であれば、病院職員からフレーザーに渡るまでに、誰の手を経てきたのかが記録されている。これが記録されていなければ、「同一性の証明が出来ない」として、裁判で証拠として認められないのだ。

さて、フレイザーはこの銃弾を19:30に受け取ったと記録している。しかし実に今日なことに、彼の前に銃弾を受け取ったFBIのある人物は、この銃弾を20:50に受け取ったとサインしているのだ。直前の人物が20:50に受け取った銃弾を、フレイザーが19:30に受け取ることは不可能だ。

また、銃弾には途中から、受け取った者たちのイニシャルを記載したと記録されている。トッドという人物からフレーザーに至るまで、4人がイニシャルを記載したとなっているのだが、実際に証拠物件399として記録されている銃弾には、トッドのイニシャルの記載が無かったのだ。

つまり、銃弾がどこかですり替えられていることになるのである。

さらにこの「魔法の銃弾」には他にも疑わしい部分がある。7つもの傷をつけたというのに、銃弾そのものにほとんど傷がなかったのだ。

これに関してはある法医学者が実験を行っている。証拠物件399と同一の銃弾を100発受け取り、死体の背中から手首に射出した場合の変形を調べたのだ。すると、100発すべての場合において、先端が大きく変形することが分かった。となれば、「魔法の銃弾」も変形していなければおかしい。このことからもすり替えが疑われるのだ。

実際、この「魔法の銃弾」の解釈は、ウォーレン委員会の中でも意見が分かれたそうだ。後に、委員を務めた人物の何人かがそのことを告白している。しかし委員会は最終的には「オズワルドの単独犯」と結論付けた。

恐らく実際には、4発以上の銃弾が使用されたはずだ。そのことは、後でも触れる「どこから撃たれたのか」という話からも分かるだろう。ただ、4発以上の銃弾が存在したとなれば、「オズワルドの単独犯」という説明は絶対に成り立たない。そこで、3発の銃弾ですべての傷を説明するための「魔法の銃弾」が生み出されたというわけだ。

また、オズワルドがケネディ大統領を撃ったとされる銃にも疑惑がある。現場から発見された銃と、オズワルドの妻が撮った写真から判別できるオズワルドの銃が、どうも違うのだ。少なくとも「スリング」と呼ばれる部品が付いている箇所がまったく違うという。さらに驚くべきことに、「オズワルドが銃を持つ写真」は3枚証拠として提出されているのだが、その内の1枚について妻が「撮った記憶がない」と言っているというのだ。実際、その妻の記憶にない写真だけ、オズワルドは左手に指輪をしているのだ。写真を捏造したのかどうなのかよく分からないが、これも不思議な話である。

証拠の中には、ヴィクトリア・アダムスという女性による証言も収録されている。彼女は当時、教科書ビルの4階にいて、オズワルドとも顔見知りだった。そして当日、「銃撃直後、階段を下りていると、オズワルドに会った」という証言をしているのである。

しかし新たに公開された証拠を精査すると、「ヴィクトリアの音声テープが行方不明になっている」という事実が判明する。そこで、そのことを調べた人物がヴィクトリアを探し出し、本人に直接話を聞きに行ったという。

すると驚くべきことに、ヴィクトリアは「オズワルドには会っていない」と証言したのだそうだ。しかしそう言っても、誰も相手にしてくれなかったという。さらに、35年間非公開だったある資料から、その日ヴィクトリアと一緒にいた上司のガーナーという人物の証言も新たに判明した。実は事件当日、銃撃から2分後には、既に警察官が教科書ビルに立ち入っているのだが、ヴィクトリアとガーナーは「警官が来る前に階段を下りた」と証言しているのだ。この証言についても、ガーナー本人に会って「事実だ」と確認している。

つまりこれらの証言から、「暗殺の日、オズワルドは教科書ビルにいなかった」ことが示唆されるのだ。

さて、驚くべき話はまだまだある。暗殺当日、ケネディ大統領が運ばれた病院で救命措置を行った医師の中にペリーという人物がいる。ケネディ大統領は救命措置のため気管切開されており、ペリー医師はその様子を目にしている。そしてその時の喉の状態から、「前から撃たれた傷だと思った」と証言している記録が残っているのだ。

さて、「魔法の銃弾」の話を思い出してほしい。ケネディ大統領の喉の傷は、「背中から入って、喉から抜けた」時に出来たものと結論付けられている。しかし当日救命に当たった医師が、「前から撃たれたと思った」と言っているのだ。これも「単独犯説」を否定する証拠と言えるだろう。

ではどうしてこのことは問題にならなかったのか。それは、ペリーが後に証言を変えたからだ。彼はウォーレン報告書に合わせるように、「後ろから撃たれたのだと思う」と意見を変えている。そしてそこには、大統領警護隊からの圧力があったことが分かっている。実際、ムーアという人物が、さらに上司から命令されてペリーに圧力を掛けたことを、映画に登場する人物に打ち明けているのだ。

さて、前から撃たれたことを補強する証拠は他にもある。それが、「後頭部に大きな穴が空いていた」という複数の証言である。この「後頭部の大きな穴」も、前方から撃たれたことを示唆する重大な証拠である。

このことは、後に「検視の際の後頭部の写真」が出てきたことでさらに問題になる。なんとその写真の後頭部には、穴は空いていないのだ。当時ケネディ大統領の頭の状態を目にした者たちが、「自分が見たものと違う」と主張した。証拠として、ケネディ大統領の脳の写真もあるのだが、この写真を見た専門家は、「2週間ぐらい防腐剤に浸けられていたような脳」と判断したそうだ。ケネディ大統領は死後少なくとも3日以内には脳の解剖をされているのだから、そんなことはあり得ない。

そもそもこの「脳の写真」にも大きな疑惑がある。公式の記録によると、脳の写真を撮影したのはストリンガーという人物だということになっている。脳の写真も公文書館に保管されているのだが、「ケネディ家から許可を得たものが館内でのみ閲覧出来る」らしく、映画では映像として登場しなかったが、その写真を見た者がストリンガーに確認したそうだ。するとストリンガーが、「自分が愛用しているフィルムと違うし、そもそも脳を下からのアングルで撮ったことはない」と証言したのだという。

では、保管されている脳の写真は誰が撮ったのか。恐らくクヌードセンという人物だろうと考えられており、彼の妻が、生前夫が言っていたことして、「頭頂部全体が無かった」と証言しているそうだ。

当時の証言の中には、「遺体の傍に、無傷の脳があった」というものまである。つまりこれも、「前から撃たれたという事実を隠すために、隠蔽工作を行った結果ではないか」と考えられるわけだ。

しかしそもそもだが、検視や解剖を行うのは法医学者なのだから、「オズワルド単独犯説」を推し進めたい人物なり組織なりがいるのだとして、そんな法医学者を丸め込んで都合の良い方向に検視・解剖を行わせることなど出来るのだろうか?

この点にも色々と秘密がある。まず、ケネディ大統領が暗殺されたのはダラスであり、ダラスにも優秀な方位会社がいた。そもそも法律で、死亡した場所で検視を行わなければならないと決まっている。しかし政府関係者はそれらすべてを無視して、ケネディ大統領の遺体を別の場所に運んだのだ(どこだったのかは忘れてしまった)。

ケネディ大統領の遺体が運ばれたところにも、当日1時間以内に駆けつけられる指折りの法医学者がいたのだが、彼らは誰も声が掛からなかった。そして、何年も検視を行っておらず、銃殺遺体を一度も検視したことがない医師たちに任されたそうなのだ。

この検視の話でちょっと笑ってしまった話がある。

検視中、背中に銃創を見つけたのだが、銃弾が見当たらない。これはとても大きな問題だ。しかしその時、まるでドラマのようにFBIから電話があり、「ケネディ大統領が載せられていたストレッチャーの上に銃弾があった」と連絡が来る。さてこの時点で解剖を担当した医師たちは「喉に傷がある」ことに気づいていなかった、らしい(そんなことあるか? と思うけど、気管切開をしたから分かりづらかったとかそういうことなんだろうか)。そこで、「背中の銃創」と「ストレッチャーに銃弾があった」という事実を合わせて、「人工呼吸をしている際に銃弾が背中側から抜け、ストレッチャーに残ってしまった」と考えた。映画に登場したある人物は、この説明を「あり得ない」と一刀両断していた。

しかしその後、救命を行った病院に問い合わせを行ったことで「喉の銃創」の存在を知った彼らは、「背中側から入った銃弾が喉から抜け、それがワイシャツで遮られ、最終的にストレッチャーに落ちた」と考えた。さらにその後、「魔法の銃弾」の仮説が現れ、「ケネディ大統領の首元で勢いを無くして止まっていたはずの銃弾が急に勢いを取り戻し、前に座っていたコナリー知事をも貫通した」みたいなナレーションが流れることになる。なんかこの説明に笑ってしまった。

このように、「明らかに不審な状況」が次々と明らかになっていくのである。もちろん、この映画で描かれていることは「前から分かっていたこと」だったりもするのかもしれないが(僕はあまりケネディ暗殺事件について詳しくないので、ほとんどの情報に「へぇ!」という感じだったが)、それが「明確な証拠によって裏付けられている」という点がとても重要ではないかと思う。

さてその後、犯人として拘束され、後に衆人環視の中射殺されてしまうオズワルドについて色んな情報が出てくる。ちょっとこの部分の描写は上手くついていけなかったが、「オズワルドが、ケネディ暗殺の4年前からCIAの重要監視人物だったこと」「ケネディ暗殺の数週間前に、重要監視人物のリストから外れていること」「一度ソ連に亡命しながら米国に戻ってきた人物で、CIAからの執拗な尋問を受けなかった唯一の例外」などなど、実に興味深い話が色々と出てくる。

また、ケネディ大統領は暗殺される少し前から脅迫されており、さらに暗殺未遂も2度経験しているそうなのだが、その暗殺未遂の際に逮捕された(んだったかな?忘れちゃった)ヴァレという人物が、オズワルドと共通項があると指摘されているのも興味深かった。特に、どちらも「ケネディ大統領のパレードが行われる街に、暗殺(未遂)の直前に引っ越し、さらに職場が暗殺に適した高いビル内にある」という指摘も面白いと思った。要するに、「ケネディ暗殺を主導した組織」があるとして、その組織は何度か機会を伺いながら、どの場合にも「スケープゴート」に出来る人物を用意していた、ということを示唆しているように思うからだ。

さてそして最後に、「ケネディ大統領は何故暗殺されたのか?」というその理由に迫っていく。この部分だけは、「ケネディ大統領がある組織によって殺された」という仮定を前提に、その仮説に合う様々な状況証拠を繋ぎ合わせたような印象もあるのだが、しかし、それまでの検証が非常に精緻だったこともあり、「きっとこういうことが背景にあったんだろうなぁ」と想像させるだけの説得力があると感じた。そして、ケネディ大統領が暗殺された背景にある事情を知れば知るほど、ケネディ大統領の偉大さが伝わるような、そんな映像になっている。

まあその描写にしても、「ケネディ大統領を礼賛し過ぎている」みたいに受け取る人もいるだろうし、その辺りの評価は僕には分からないが、ただこの点に関しても、ARRBが収集してきた様々な資料によって裏付けされる情報があり、その中のある資料に関してある人物が、「ARRBの偉大な功績だ」と語っていた。とにかく「世界を真っ当に平和にするために尽力した」という印象が強い人物であり、彼がもしも暗殺されなかったらどんな世界になっていたのだろうと感じさせられた。

映画の最後で、「ウォーレン報告書が、政権への猜疑心を増大させる要因になった」と語られていたし、ある人物は、「真の民主国家を目指すなら、真相が明らかにされなければならない」みたいに言っていた。まあ確かにその通りだろう。この映画が示唆する通りであれば、「アメリカという国」はある種の「自縄自縛状態」にあると言ってもいいように感じられるからだ。

まあ、「陰謀があったかどうか」はともかく、映画で示された証拠からは明らかに「オズワルド単独犯説」は否定されると言っていいだろう。オズワルドが犯行に関わっているのかいないのか、その辺についても断定は出来ないように思うが、教科書ビルにいた女性たちの証言を踏まえれば、あの日オズワルドは教科書ビルにいなかったと考えることも妥当だと思う。だとすれば本当に「スケープゴート」にされただけなのだろうし、本当にそういう状況は最悪でしかないなと感じさせられる。

どれだけ証拠を積み上げたところで、「我々がやりました」という告発でも無い限り真偽ははっきりしないだろうが、何かの拍子にそのような凄いことが起こって、真相が解明されてほしいと思う。

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