【映画】「裸のムラ」感想・レビュー・解説

「面白かったのか」と聞かれると、ちょっと悩む作品である。取り上げられている個々の要素はなかなか興味深いと思う。ただ、それらが全体としてまとまっているのか。僕には、あんまりまとまっていないように感じられてしまった。

いや、そこが面白いのかもしれない。うーむ、どうかなぁ。

個人的に一番凄いなと感じたのは、「石川県県知事の交代しなさ」である。映画撮影当初の時点での知事は谷本正憲で、最終的に7期28年間知事を務めた。その前の知事は、任期中に亡くなったようだが、在職30年11ヶ月と公選の知事としては歴代最長だという。

つまり、石川県は、約60年間の間に知事が2人しかいなかったということなのだ。これは凄いな。公式HPには、石川県は「北陸の保守王国」だと書かれていて、「保守」っていうのは「革新」の対義語だろうから「保守的」って意味ではないのかもしれないけど、60年間で知事2人というのは、なかなか「保守的」だなぁと思う。

そして、この「保守的」な県民性みたいなものが、映画の根底に描かれているのだろうと思う。まあ、石川県に限らず、地方は割とどこもそうだろうが、要するに「ムラ社会」というやつだ。

映画の背景にはもう1つ「コロナ禍」というテーマもあり、この「ムラ社会」「コロナ禍」を最も象徴する被写体として、「イスラム教を信仰するムスリム一家である松井家」が選ばれている。旦那さんがインドネシアにボランティアに行った時にインドネシア人でイスラム教徒の奥さんと出会って結婚、3人の子どもと共に石川県で暮らしている。

映画を観ても詳しく理解できなかったが、この旦那さんが自宅近くにイスラム教のモスクを建設したのだと思う。そして、そのモスク建設には地元の反対運動が起こった。モスク建設は2014年。計画がいつ始まったか分からないが、間違いなく9.11テロが起こった2011年以降のことだ。「イスラム教徒=テロリスト」という偏見が凄まじかった時期のことであり、大変だったそうだ。

普段はモスクに大勢の人が集まって礼拝など行うが、コロナ禍で中止している。そんな彼らが石川県でどんな暮らしをしているのかが映し出される。

一般市民で映し出される人の中には、「バンライファー」と呼ばれる人たちもいる。キャンピングカーや改造したバンを自宅のようにして生活する人たちのことだ。映画では、東京から石川に移住した人と、キャンピングカーで全国を旅する予定だったが、コロナ禍で県外ナンバーの車が嫌がられるため、一旦石川に腰を落ち着けた人が映し出される。

「コロナの無症状者は是非石川にリフレッシュに来て下さい」と発言し炎上した谷本知事を中心に議会などの様子が映し出され、その後、馳浩が石川県知事に出馬する話、彼が谷本知事の選対本部長を務めていたこと、さらに遡って森喜朗との関わりなどが描かれていく。

みたいな映画だ。

自分で書いてて、やっぱりよく分からないなと思う。

個人的にとても印象的に残っているのは、ムスリムである松井家の次女へのインタビューだ。松井家の中で、奥さんと次女だけがヒジャブを被っている。そして、次女はドキュメンタリー映画撮影のカメラを明らかに避けている。

そんな中、取材班は両親から、「次女は小学4年生の時に自分でヒジャブを付けると言ったが、高校生の時に外したいと口にした」という話を聞く。その真意を知るため、取材班は嫌がる次女にカメラを向け、話を聞こうとする。

このシーンは嫌だったなぁ。

公式HPには、「……しだいに高圧的になっていく取材者自身の姿も晒すことになり…。」と書かれている。恐らくこの場面(や、谷本知事に質問する場面)などを念頭に置いての記述だと思うし、そういう自覚はあるのだなとは思うからいいのだけど、凄く嫌なものを観たなぁ、という感覚があった。

もう1つ印象的だったのは、これも松井家の話だが、旦那さんが公安警察から「内部スパイのようなことをやってもらえないか」と依頼された、と話していたこと。旦那さんは、「それ、他の宗教にもやってるの?」と聞くと、「いえ、イスラム教だけです」と答えたという。さらに公安が、「アメリカのためにやっている」と口にしたので、「最悪日本のためならまだしも、アメリカのためっていうなら止めてよ」と返答したと語っていた。もちろん、断ったそうだ。

この2つは、とても印象に残っている。

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