見出し画像

檀家6軒から地域再生 浄土宗来迎寺

※文化時報2021年7月1日号の掲載記事です。

 檀家6軒という山間部の小さなお寺が、地域住民から悩みを打ち明けられる場となり、地域再生に貢献しようとしている。浄土宗来迎寺(静岡県富士宮市)だ。岩田照賢住職(48)は、母が認知症となった経験から地域包括ケアシステム=用語解説=の必要性を感じ、介護者がつらさや悩みを語り合う介護者カフェ=用語解説=を月1回開催。引きこもりの親たちが集う茶話会も始めた。「悩みを〝見える化〟し、支え合えるようにすることが地域づくりだ」と語る。(大橋学修)

契機となった母の認知症

 来迎寺は、富士宮市の浄土宗平等寺の隠居寺として約400年前に開創された。大正年間に堂宇が撤去されて以降は、境内地と法人格のみを持つ寺院となった。平等寺住職で来迎寺の兼務住職となった岩田住職は、2007(平成19)年に本堂などを再建したが、檀家は6軒のみで建物を活用しきれていなかった。

 地域では高齢化が進み、行事が縮小・廃止され、住民同士が交流する機会は減っていた。隣接する地域では住宅開発が進んだものの、新たに引っ越してきた人ばかりで、地域間に断絶が生まれようとしていた。

 「寺院を活用できないか」。岩田住職がそう考えていた15年、母が認知症と診断された。介護施設を見学する中で「こんな所に行きたくない」とつぶやいた母の言葉が、介護者カフェを始めるきっかけとなった。

安心できる寺院空間

 「住み慣れた地域でいつまでも暮らせる環境づくりに、寺院を生かせないか。互いに支え合える地域が必要ではないか」。岩田住職はそう考え、富士宮市や地域の社会福祉協議会に相談。2020年9月に第1回の「来迎寺カフェ」を開いた。

 参加者の交流が進むにつれ、不登校の子どもを持つ親や、自宅に引きこもる30~40代の子を持つ親の存在を知った。互いに悩みを話し合える場として「ひきこもりの親の会」も毎月行うようになった。

 岩田住職は「来迎寺カフェを開いたことで、これまで見えていなかった悩みが出てきた。行政とは異なり、足を運びやすく、安心できる寺院の空間だからこそ、悩みを打ち明けられるのではないか」と話す。

 今後は高齢者だけでなく、子育て世代や子どもが困り事を相談できる場づくりや、子ども食堂の開催などを通じて、世代間交流を進めたい考えだ。

活動を理解、資金集まる

 来迎寺は、高齢者に来てもらいやすくしようと、境内と施設のバリアフリー化を目指し、5月6日にクラウドファンディングを開始。わずか2日で目標額の100万円に達した。

 支援者からは「お寺にしかできないことがあると思います」「地域包括ケアシステムの穴を埋め、時代を変えることでしょう。多くのお寺に広がりますように」などのコメントが寄せられた。

 岩田住職は「背景となる活動を理解していただけたから、多くの資金が集まったと感じる」と話し、「やはり、共生が大切。一人では生きていけない。共に助け合い、誰もが認め合えるような地域社会を目指したい」と話している。
         ◇
【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

【用語解説】介護者カフェ
 在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。孤立を防ぐ活動として注目される。

【サポートのお願い✨】
 いつも記事をお読みいただき、ありがとうございます。

 私たちは宗教専門紙「文化時報」を週2回発行する新聞社です。なるべく多くの方々に記事を読んでもらえるよう、どんどんnoteにアップしていきたいと考えています。

 新聞には「十取材して一書く」という金言があります。いかに良質な情報を多く集められるかで、記事の良しあしが決まる、という意味です。コストがそれなりにかかるのです。

 しかし、「インターネットの記事は無料だ」という風習が根付いた結果、手間暇をかけない質の悪い記事やフェイクニュースがはびこっている、という悲しい実態があります。

 無理のない範囲で結構です。サポートしていただけないでしょうか。いただければいただいた分、良質な記事をお届けいたします。

 ご協力のほど、よろしくお願いいたします。


サポートをいただければ、より充実した新聞記事をお届けできます。よろしくお願いいたします<m(__)m>