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一人に向き合う 看護師から僧侶へ

※文化時報2021年3月25日号の1面トップ記事です。

 浄土真宗本願寺派永生寺(滋賀県守山市)の住職、伊達智子さん(47)は、40代で看護師から僧侶を志した経歴を持つ。精神科病棟で勤務する「ナースボーズ」として活動を続けてきたが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、昨年末に退職を決断。住職に専念することにした。キャリアを手放すことへの葛藤の末、立ち戻ったのは「ご門徒の一人一人に向き合う」という原点だった。(安岡遥)

寺に背を向けた日々

 伊達さんは1973(昭和48)年、3人姉妹の長女として生まれた。父の彰さんは永生寺16世住職。薬剤師として働きながら寺務に当たっていた。「昔から、何事にも全力投球する人。一軒ずつ大切にご門徒宅を回り、帰るときには足元がふらつくほどだった」と、伊達さんは語る。

 幼い頃から父の背中を見てきたが、寺を継ぐ意思はなかった。「住職になるようはっきりと言われたことはないが、常に『お寺の娘』として見られ、プレッシャーを感じていた」と振り返る。

 学生時代は吹奏楽に打ち込み、家を離れたい一心で滋賀県内の看護学校へ進学した。

 ところが、卒業後に就職した病院でパワハラを受け、約1年で退職。実家に引きこもる日々が続いたが、「患者さんとともに立ち直りたい」との思いで精神科看護師への転職を決意した。

 心の病を抱える患者への向き合い方には、唯一の正解がない。一人一人に適した処置を探ることにやりがいを感じた。

 在職中に結婚し、2人の息子が誕生。息子たちに知的障害があることが分かり、社会福祉士の国家資格を取得するなど、目まぐるしくも充実した20~30代を過ごした。

「お寺の娘」として

 背を向けてきた僧侶への道を再び意識したのは、40代に入った頃。ある女性患者の自死が契機だった。

 女性は父親の再婚相手と折り合いが悪く、体中に虐待や自傷の痕があった。退院後に一人暮らしを始め、回復の兆しが見えていたが、恋人と口論した後連絡が途絶え、アパートで遺体で見つかった。死後数日が経過していたという。

 「この人には、生きていて心から楽しいと思えることがあったのだろうか」。無力感にさいなまれる中、「お寺の娘としてできることがあるのではないか」と思い当たった。

 「子育てが落ち着いたら僧籍をいただきたい」と考え始めた頃、父からメールを受け取った。「住職を継いでくれないか」。その言葉に、自然な気持ちでうなずいていた。

伊達智子さん②

自坊の報恩講で読経する伊逹さん=2月14日

一人一人に寄り添う

 2014年に本願寺派の僧侶養成校・中央仏教学院(京都市右京区)へ入学。アルコール依存症患者専門の病棟で勤務を続けながら、通信教育で3年間学んだ。
 
 46歳を迎えて間もない19年10月、永生寺第17世住職を継承。病院と自坊を行き来しながら、「多くの人を寺に集めたい」と、さまざまな事業を構想していた。

 ところが、昨年初めごろから新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化。勤務先でも自助グループの集まりなどが中止され、心を閉ざす人や病院を飛び出す人、飲酒の衝動を抑えきれず消毒用のアルコールを口にする人もいた。
 
 「住職との二足の草鞋(わらじ)を履いたまま、孤独を深める患者と向き合うことができるだろうか」。思い悩んだ末、年末に辞表を提出。住職としての勤めに専念すると決めた。
 
 一方で「20年間のキャリアを更地にして、自分は一体何をしているのだろう」との思いが頭をよぎることも少なくなかったという。

 だが、父のように門徒宅を回る中で、心境が変わりつつある。「これまでの私は、『頑張る自分』に酔っていたのかもしれない。コロナ禍は、立ち止まって自分を振り返る機会なのではないか」

 伊達さんは、こう決意を語る。

 「これからは、寺を町の安全基地のような存在にしたい。経歴を生かせる場を探しつつ、ご門徒の一人一人に寄り添い続けたい」

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