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過労自殺を高校生が取材 ドキュメンタリー、学会で公開

※文化時報2021年9月20日号の掲載記事です。写真は同朋高校放送部が制作したドキュメンタリーの一場面。遺族と弁護士を招いて生徒が学ぶ「証言学習会」の様子

 真宗大谷派の宗門関係学校、同朋高校(滝敏行校長、名古屋市中村区)の放送部の生徒らが制作したドキュメンタリー『過労自殺』が12日、名古屋市熱田区の労働会館で開かれた過労死防止学会の第7回大会で上映された。2012(平成24)年に亡くなった女性の遺族や弁護士から取材した約15分の映像作品。会場とオンラインで専門家ら約100人が視聴した。(主筆 小野木康雄)

 題材になったのは、12年6月に同市内で起きた女性(当時21)の過労自殺。女性は勤務先の先輩社員2人から激しい叱責や暴言を受け、社宅の屋上から飛び降りた。労災が認定され、両親が会社と2人を相手に勝訴した民事訴訟では、パワーハラスメントと過重労働が原因と認められた。

 同朋高校の生徒らは、16年から継続して過労自殺について学んできた。女性の母親や代理人弁護士、医師らと会い、卒業生や在校生らに意見を聞いて、どうすれば過労自殺をなくせるかを考え続けた。

 その過程で「自分たちだけが知るのでなく、もっと多くの高校生にも考えてもらおう」と、放送部がドキュメンタリーの制作を企画。最初は音声だけだった作品を、先輩から後輩へ引き継ぐ過程で映像化と追加取材し、今年になって5作目となる完結編(約15分)ができた。

 一方、女性の母親は昨年の過労死防止学会第6回大会で事例を報告しており、生徒らによる映像化を知った学会事務局が今回、上映を打診した。

同朋高校学会で上映

過労死防止学会で作品が上映された=9月12日、名古屋市熱田区の労働会館

 視聴した参加者からは「感動した」「若者にもっと見てもらいたい」との感想が聞かれ、髙田好章・過労死防止学会常任幹事は「会員は高校や大学で啓発授業を行っており、そうした場でも活用できるのではないか」と話した。

 上映に立ち会った放送部顧問の宮城道良教諭は「生徒たちは、自分たちの身近な問題として取り組んでくれた」と振り返り、「次の代の生徒たちも過労自殺に関心を持って、新たな作品を制作してくれれば」と期待を寄せた。

部活に生きる宗教教育

 同朋高校は宗祖親鸞聖人の月命日に当たる毎月28日前後を「見真の日」と位置付け、朝の勤行や校長の法話、一般教員の感話を行っている。放送部は「真宗宗歌」や「恩徳讃」といった宗教音楽の校内放送を担当。顧問の宮城道良教諭は宗教主任も務めており、「部員たちには、いのちや人間の尊厳について考える素養がある」と話す。

 過労自殺に取り組むきっかけとなったのは、石井拓児・名古屋大学大学院教授(教育行政学)を招いた2016年10月の講演会。同朋高校では、生徒・保護者・教員の3者が学校運営について協議する約230人規模の「同朋高校オープン・フォーラム」を毎年開催しており、その事前学習会という位置付けだった。

同朋高校宮城教諭

 宗教主任も務める放送部顧問の宮城道良教諭

 生徒側が「大人たちと同じ土俵で議論できるよう、学びたい」と、事前学習会の開催を宮城教諭に提案。石井教授の講演で取り上げられた過労死問題に強く関心を持ち、今度は実際に遺族の話を聞けないかと宮城教諭に持ち掛けた。

 17年2月、過労自殺した女性の母親と弁護士を招いて「証言学習会」を開催した。生徒らは、職場での凄絶ないじめや指導とパワハラの違い、心理的な影響などについて話を聞いた。

 当時高校2年だった生徒会長、西村歌織さん(22)は「お話に衝撃を受けながらも、一人一人が自分たちで考え、感想や意見を出し合った。自分が働くようになり、相談できる人の必要性などをより実感できるようになった」と振り返る。

 翌18年、ドキュメンタリーの制作を知った母親からは感謝の手紙が届き、次のように書かれていた。

 「未来のある皆さんが考えていっていただきたいと思います。そしてこの世の中から、過労死・過労自殺がなくなることを切に望んでいます」

活動の経緯出版

 同朋高校放送部の一連の活動は今年7月、書籍になり、『高校生・若者たちと考える過労死・過労自殺―多様な生き方を認める社会を』(学習の友社)として出版された。著者は石井教授と宮城教諭。

 また過去の映像作品は、同朋高校放送部応援サイトや「TVF 2020 同朋」と検索して動画投稿サイト「ユーチューブ」で見ることができる。

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