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タリバンに信仰心で向き合う

山本英里SVA事務局長に聞く

※文化時報2021年9月16日号の掲載記事です。写真はアフガニスタンの子どもたちと談笑する山本事務局長(2005年、SVA提供)。

 混迷が続くアフガニスタン情勢について、現地で教育文化支援を続ける曹洞宗系の公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA、若林恭英会長)の山本英里事務局長兼アフガニスタン事務所長(47)が、文化時報のインタビューに応じた。イスラム原理主義勢力タリバンとの相互理解から始めるべきだとの認識を示し、「信仰を持つことに意味がある。宗教が違っても分かり合える」と語った。主な一問一答は次の通り。(山根陽一)

相互理解は教育から

 《SVAはアフガニスタンで読み聞かせや読書を通じた子どもの保護と教育に力を入れてきた。自身も2003年から6年間現地に滞在し、さまざまな活動に取り組んできた》

――今、現地の人々が一番困っていることは何ですか。

 「行政サービスが停滞し、物流が滞っています。銀行がストップして預金が下ろせない。物価が高騰して物が買えない。隣国に移動しようと思ってもタリバン政権下では困難。私たちもパキスタンやドバイなどを経由して支援を試みますが、今は本当に難しい」

――タリバン政権下では、一般の人々の暮らしはままならないと。

 「今はそうかもしれません。でも、だからといってそうした勢力を糾弾・排除するようなやり方では解決しない。相互理解から始めないといけません」

――アフガニスタン問題の根本はイスラム教宗派の教義の違いや対立にあるという理解が一般的です。

 「私はそうは思いません。根本にあるのは貧困と教育の不足。文字を読めない人々にとって、教義に意味はない。銃を持って兵士になればご飯が食べられると言われれば、過激な武装勢力に入ってしまいます。そこから武力による争いが生まれ、報復の連鎖が止まらなくなる。この繰り返しだったのです」

――教義ではなく生活のために銃を持つのですね。

 「アフガニスタンでは山岳地帯に多くの少数民族が暮らしています。多くはイスラム教徒で生活様式も価値観も異なるけれど、そこには普通の人々の穏やかな暮らしがある。そして、農作業では女性も重要な働き手です」

 「いろいろな信仰や価値観があっても互いに理解し、貧困から抜け出すには教育こそ重要だと思います」

 《SVAは01年の米中枢同時テロ後、アフガニスタンへの空爆を機に食料支援など緊急援助事業を開始。同年に事務所を開設した。20年までに43校の学校建設、158館の図書館設置、107タイトルの絵本を出版。多くの子どもに教育機会を与えてきたが、成人の識字率は43%にとどまるという》

仏教徒として対峙する

――故・中村哲医師をはじめ日本人が多く現地で活躍され、「親日」の人が多いと聞きます。

 「2度の世界大戦で欧米の大国と渡り合ってきたとか、品質の高い家電製品を生産するとか、日本の評価は高いですね。もちろん日本人にも親しみは持っていると思います」

 「でも、先進国の価値観を押し付けるのは違います。彼らは近代的な社会を目指しているわけではない。宗教文化を大切にしながら生きていきたいのです」

――私たちはこの先、アフガニスタンに何ができるのでしょうか。

 「宗教は違うけれど、信仰を持つことに意味があると思う。心の支えをどこかに持っている者同士でつながり合うことができます」

 「現地にいたとき、イスラム教への改宗を勧められたことがありました。でも、私は僧侶ではないが仏教徒であると伝えると、その信仰心に敬意を払ってくれた。宗教は違っても、祈りをささげる行為で分かり合えるのです」

 「混沌とした状況ですが、SVAがこれまでやってきたことは必ず未来へつながっている。信念を持って、子どもたちへ手を差し伸べていきたいですね」

山本英里_2021_サイズ大

 山本英里(やまもと・えり)1974年6月、浜松市生まれ。英国ブリストル大学大学院修士課程修了。2001年にインターンとしてSVAタイ事務所に入職。03年からアフガニスタン事務所に6年間駐在し、その後パキスタン、ミャンマー、カンボジアなどで支援活動を展開した。17年4月からアフガニスタン事務所長、19年7月から事務局長を兼務。20年11月に中曽根康弘賞奨励賞受賞。
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