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医療的ケア児専用避難所へ検討 浄土宗願生寺

※文化時報2021年11月11日号の掲載記事です。

 大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)は、災害時に医療的ケア児=用語解説=専用の避難所として活用できるよう検討を始めた。防災や医療・看護などの専門家を委員に招き、「願生寺防災プロジェクト」を発足。具体化するまでのプロセスを公開し、全国の寺院が避難所になるためのモデルづくりを目指す。大河内住職は「願生寺でできなくても、他の寺で取り組める仕組みが作れれば」と話す。(大橋学修)

 10月31日に第1回現地調査とミーティングを実施。福祉・防災対策のアドバイザリー業務を担う「Office SONOZAKI」の園崎秀治代表、宗教の社会貢献を提唱する稲場圭信・大阪大学大学院教授、防災看護を専門とする亀井縁・四天王寺大学准教授、在宅医療などに詳しい小西かおる・大阪大学教授らが参加した。

 願生寺は、訪問看護ステーションの開設やまちの保健室=用語解説=などを通じ、これまで積極的に社会貢献に取り組んできた。南海トラフ巨大地震や豪雨災害の発生を見据え、お寺を避難所として活用することを検討。周辺に指定避難所の小中学校と高校があることから、願生寺では訪問看護ステーションの活用を視野に、医療的ケア児など指定避難所では受け入れが難しい人を対象にすることを考えたという。

住民・行政巻き込み交流

 ミーティングでは、周辺のフィールドワークの後、稲場教授と小西教授が講演した。稲場教授は、過去の地震や洪水で寺院が避難所となった例や、宗教法人の社会活動に行政の理解が進んでいることなどを説明。「現代社会のさまざまな問題に、行政主導のシステムだけでは対応できない。自発的な利他的精神に富む市民社会を形成する上で、宗教が関わることが必要」とした。

 小西教授は、支援が必要とされる人の生活状況を把握するネットワークが確立されていないことや、安全な避難所が整備されていないことなどの問題点を挙げ、「災害対策を取り入れた日常的なケアが必要。ケアされる人の特性を住民に理解してもらえるよう、お寺を中心とした町づくりを進めてはどうか」と語った。

 その後の話し合いでは、避難所の開設ありきではなく、医療的ケア児との普段の関わりの重要性を指摘する声が相次いだ。

浄土宗願生寺・防災プロジェクト01

 小西教授は「医療的ケア児の保護者からのヒアリングが必要。看護する上で、情報が何もない状態で来られると、薬の使用などにも困る」と指摘。亀井准教授は「普段から地域住民との関係性をつくっていくことが大切。いろいろな人を巻き込まなければならない」と話した。

 園崎代表は「ボランティアが避難所に関われることが重要。医療の専門家以外にも手伝えることがある。プロジェクトを立ち上げる段階から、さまざまな人が加わった方が良い」と語り、稲場教授は「どのような支援を必要とする人が地域にいるのかを把握する必要がある。行政との連携も欠かせない」と述べた。

 これらの意見を受け、医療的ケア児のいる家庭や医療関係者だけでなく、地域住民や行政との連携・交流が必要という認識を共有した。大河内住職は「来年3月まで意見交換を行いながら、地域や当事者と連携したい」と話した。

【用語解説】医療的ケア児
 人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、 痰(たん)の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童。厚生労働省科学研究班の報告では、2017(平成29)年時点で全国に約1万8千人いると推計されている。社会全体で生活を支えることを目的に、国や自治体に支援の責務があると明記した医療的ケア児支援法が今年6月に成立、9月に施行された。


【用語解説】まちの保健室
 学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。

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