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最先端住職が伝える、アナログのぬくもり。

※文化時報2021年10月4日号の掲載記事です。

 「仏教こそ時代の最先端を走っている」。日蓮宗経王寺(東京都新宿区)の互井観章住職(60)は、そう言ってはばからない。仏教を身近に感じてもらおうと、演劇や音楽ライブを自坊で開き、サブカルチャーと仏教を融合して世間にアピール。ホームページや画像共有アプリ「インスタグラム」の更新を欠かさず、ITを駆使する。その一方で最近は、アナログの重要性も強調。「お寺が持つぬくもりや柔らかさを見直したい」と語る。(山根陽一)

 経王寺は日蓮聖人の高弟・日法上人が作った大黒天立像(高さ約15センチ)をまつる都心の寺。都営大江戸線の牛込柳町駅から徒歩1分という抜群の立地にある。法話会や一日体験修行、仏像に関するワークショップを行いつつ、若者が関心を持ちそうなイベントを仕掛けてきた。

 例えば、演奏に合わせて読経するジャズライブ。お経の一部を現代語訳し、ラップのリズムに乗せたこともある。多彩なイベントを行うため、異なるジャンルのアーティスト同士が出会える場としても重宝されていた。

 新型コロナウイルス感染拡大で、こうしたイベントが開けなくなってきた。代わりに各寺院で導入が進むオンラインでの交流や法要などの動画配信は、互井住職にとってお手の物だ。2000年ごろにはホームページを開設し、ブログという言葉が一般的でない時代から、ネット上で情報発信を続けてきた。

 だが、デジタルトランスフォーメーション(DX)=用語解説=の〝一本足打法〟には、疑問を持っている。「定点カメラで法要の動画を流して、仏教への興味を喚起できるだろうか。ITツールをそろえて上手に使いこなせたとしても、それが受け手にしっかり届いているのか」

 最近感じているのが、アナログの良さだという。檀信徒に出す手紙は、手書きでしたためる。「パソコンの文字が当たり前の昨今、奇麗な文字で送られてきたら気分がいい。手に取る時の紙のぬくもりもいいでしょ」とほほ笑む。

 また、年3回発行する寺報『hasunokahori』の制作にも力を入れる。手に取って触ることのできる紙媒体。これもアナログだ。重要なのは、デジタルかアナログかという手法ではなく、コンテンツの質や伝えようとする創意工夫。「仏教の教えを伝えるという本来の目的を、私たち僧侶は再確認すべきです」と力を込める。

経王寺マガジン表紙

寺報『hasunokahori』の表紙

当初は落ちこぼれ

 お寺に生まれたが、僧侶になるつもりは毛頭なかった。カウボーイに憧れて獣医畜産学部へ進学。卒業後、渡米して現地の牧場で働いた。新宿の街中で生まれ育っただけに、大自然に身を置きたかった。

 紆余曲折あって日本に戻り、僧侶として生きていくことに。当初はさほど熱心ではなく、「落ちこぼれの坊さんだった」という。

 そんな時、超宗派の僧侶らが運営するボランティア団体・仏教情報センターの「仏教テレフォン相談」に相談員として参加することになった。切実な苦悩の声を聴いた。余命宣告を受けたがん患者や、ギリギリのところで生きている自殺志願者に、何も答えられない。自分のふがいなさを痛感した。

 折しも、オウム真理教事件が世間を騒がせていた頃で、宗教への疑念が渦巻いていた。「今、僧侶として何かしなければ自分の存在意義はない」と思うようになったという。

 その後、始めたのが法話会。とにかく仏教の教えを伝えたかった。米国暮らしで身に付けた「物事をストレートに言うこと」が役に立った。

 コロナ禍では、自由に行動できずにふさぎ込む人や、経済的に困窮する人たちが少なくない。だからこそ、都心でも心がほっとする、気持ちが落ち着くお寺は、貴重な存在だという。

 経王寺の山門の下には、通りに面して掲示板があり、「今日のひとこと」が手書きで書かれてある。デジタル全盛の時代にあって、アナログのぬくもりも生かす。そして「一人一人の心の中に仏教の楽しさを染み渡らせたい」と、互井住職は願っている。

経王寺互井住職

 互井観章(たがい・かんしょう)1960(昭和35)年11月、東京都新宿区生まれ。北里大学獣医畜産学部卒業後、米国とカナダの牧場で働く。帰国後、実家の日蓮宗経王寺の僧侶となり、超宗派の仏教情報センターでテレフォン相談員を約10年間務める。2002年から住職、21年から立正大学非常勤講師。

【用語解説】デジタルトランスフォーメーション(DX)
 企業がデータやデジタル技術を活用し、製品やサービス、業務や組織などを変革して、競争の優位に立つこと。経済産業省が2018年、推進するためのガイドラインをまとめた。

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