M-1挑戦 僧侶という広告塔
浄土宗観音寺・山下健斗住職
※文化時報2021年9月30日号の記事を再構成しました。
若手漫才師の登竜門「M―1グランプリ」に挑戦する浄土宗僧侶がいる。観音寺(京都市上京区)の山下健斗住職(30)。自らを広告塔とし、地域の人々に「親しみやすいお坊さんがいる」と感じてほしいからだ。「漫才は人の心を豊かにする。仏教も同じ」。目標はお寺を憩いの場にすることだ。(大橋学修)
造園業の先輩から
「和と言えば…」「いや、それ和とちゃうやろ」
8月30日、心斎橋パルコ(大阪市中央区)のSPACE14(イチヨン)で行われた「M―1グランプリ2021」1回戦。造園業に携わる高校時代の先輩とコンビを組み、漫才に挑んだ。コンビ名は「パープルマン」。和のイメージを持つ紫色から名付け、舞台衣装には作務衣を用いた。
「そこそこ受けた」が、あえなく敗退。それでも会場を後にする車中では、来年の再チャレンジに向けて、新たなネタのアイデアについて話し合っていた。
M―1挑戦は、先輩から持ち掛けられた。先輩は、祖父が育てたサクラの苗木を全国に広めるため、漫才を通じて有名になりたいのだという。
一方、山下住職は観音寺を親しみのあるお寺にしたいと思っていた。それにはまず、自分から行動しなければならない。大学時代に地方のコンクールに出場するほど漫才が好きだったこともあり、「とりあえず、やってみよう」と、二つ返事で先輩の求めに応じた。
サッカークラブと同じ
観音寺は、山下住職の祖母が住職を務めていた寺だ。小学生の頃には棚経に同行し、自分は跡継ぎになると言い含められていた。
だが、高校生になると寺を継ぐのが嫌になり、立命館大学スポーツ健康科学部を卒業後に上京。プロサッカークラブの「東京ヴェルディ1969」や「FC町田ゼルビア」のマネジメント部門で、遠征の手配などに携わった。
ただ、祖母の「寺を継いでほしい」という言葉が、頭から離れなかった。「クラブチームは、地域密着を重視している。お寺も地域に密着した存在。同じではないか」
クラブチームで働きながら、2017~19年に浄土宗僧侶の基礎を学ぶ教師養成道場へ入行。19年12月に伝宗伝戒道場=用語解説=を満行し、昨年3月に観音寺住職になった。
住職になって気付いたのは、住民の高齢化が進み、地域力が低下していることだった。「心を豊かにすることがお寺の役割。地域を活性化する活動に取り組むべきだ」。M―1挑戦も、お寺の堅いイメージを取り払う一助になると考えた。
分かち合いの場を
心を豊かにするのは、笑いだけではない。
10月17日には、突然死で夫を失った檀信徒の八田圭子さんの著書『悲しみは悲しみのままで―五年間の心の記録』(糺書房)の朗読会を行う。
八田さんの夫は2015年9月、通勤中にバスの中で突然亡くなった。心臓疾患だった。八田さんは、幼い2人のわが子と共に懸命に生き、折に触れて書きためておいた文章を同書にまとめた。
「当たり前だった日々が、当たり前でなくなった」と語る八田さんから、「同じ境遇の人に共感してほしい」と相談を受け、朗読会を開くことにした。これをきっかけに、悲嘆に暮れる人々が気持ちを分かち合う場をつくるつもりだ。
山下住職は「お寺は公園のような場であるべきだ」と語る。子供が遊び、お年寄りが散歩し、老若男女が集う。新型コロナウイルスの影響でお寺を取り巻く環境は厳しいが、「いろいろなことをして、気軽に立ち寄れるお寺となるよう努力したい」と、腹を固めている。
朗読会は10月17日午前11時と午後2時から、観音寺本堂で。入場料1500円(70歳以上と高校生は千円)。定員各回20人。
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【用語解説】伝宗伝戒道場(でんしゅうでんかいどうじょう=浄土宗)
浄土宗の僧侶資格で最上位の教師になるための道場。「加行」「加行道場」とも言う。
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