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コロナを越えて⑲法要とデザインでつなぐ

真宗大谷派企画調整局参事 合同会社kei-fu共同創業者/業務執行社員 中山郁英氏

※文化時報2021年9月13日号の掲載記事です。

 真宗大谷派徳満寺(滋賀県長浜市)門徒の中山郁英氏(34)は、宗派の企画調整局で非常勤の参事として、過疎地域の支援員の養成や若手僧侶の研修に携わる。祖母の死を機にUターンした地元・長浜市では、自身の会社や団体などで町づくりに貢献。2023(令和5)年の宗祖親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年法要に向けた慶讃テーマ策定にも関わり、「慶讃テーマや法要をきっかけに、縁を結んでほしい」と呼び掛ける。(編集委員 泉英明)

Uターン「最期は地元で」

《中山氏は大学卒業後、トヨタ自動車に勤務したが、いつも一緒に正信偈を勤めていた祖母が亡くなったことを機に、自身の人生を見つめ直した。「最期は地元で」。その思いを胸に、Uターンを志した》

──大企業から転身されました。

 「出身は市町村合併前の旧長浜市。4年前にUターンし、長浜市内の木之本町に移住した。門徒家庭で育ち、小学生の時は祖母と一緒にお夕事で必ず正信偈を勤めていたが、宗派と関わる前は、それほど教えを意識していなかった」

 「『おばあちゃん子』で、東京や愛知で暮らしている時も様子を見に帰った。トヨタ自動車のレクサス企画部で働いていた2年目に祖母が亡くなった。自分の最期を考えた時、『死ぬなら長浜で』と決めた。そこから、いつ戻ってどのように過ごすかを考え、地元で活動する人生を思い描いた」

 「Uターンに向け、スキルを磨こうと、外資系のコンサルティング会社に転職した。そこで課題に対してデザインの考え方を問題解決に用いる『デザイン思考』や、顧客の視点から事業などを生み出す『サービスデザイン』などに取り組みたいと考え、東京大学の特任研究員となった」

人が交わる場をつくる

《17年にUターンし、自身の会社や一般社団法人・滋賀人などを立ち上げると、行政関連の仕事を数多く手掛けた。19年には、木之本町で住民らが交流する雑貨店とカフェ「コマイテイ」をオープンした》

──現在はどのような仕事をなさっていますか。

 「長浜市役所をはじめ、行政の人たちと活動することが多く、行政と民間企業の間でマネジメントする役割を果たしている。昨年は名古屋市や愛知県春日井市でも仕事をした」

 「具体的には、JR長浜駅前の商業ビル1階に、地域を舞台に活動する人たちが集まってアイデアが交わる場所を構築しようとしている。木之本町でも地元の高校を魅力的にする活動や、JR木ノ本駅前で地域の人たちが守ってきた私設図書館の今後を考える事業も行っている」

 「基本的に活動の拠点は長浜。地域に必要とされることを考える。今後は、循環型のエコ社会構築に必要な教育や経済などに関する事業を手掛けたい。何かしら人に関わる仕事を続けたい。自分が死を迎える時に、長浜が楽しい地域になっていることが大きな目標だ」

──新型コロナウイルスの影響は。

 「コマイテイは、元個人医院だった『駒井邸』を改装した店舗で、週に1〜2日営業してきたが、8月から休業している。他の仕事や新型コロナの状況を見ながら、徐々に店を開けていきたい」

経済面2

住民らと触れ合う「コマイテイ」

 「感染拡大で、これまでに関わりがあった人たちとは、オンラインを使うことでむしろ話しやすくなった。ただ、初対面の人との偶発的な出会いが難しくなったと感じる。勉強会や行事などで生まれるつながりが減ってしまったのは残念だ」

「南無阿弥陀仏」で身近に

──宗派との関わりは。

 「東大に勤務していた頃に宗派の企画調整局から声が掛かった。浄土真宗とあまり接点はなかったが、『違う視点で一緒に考えてほしい』と言われ、17年から非常勤で企画調整局の参事に就任した」

 「過疎・過密地域の寺院活性化支援員や、若手の研修などを手伝い、支援員の在り方や人材育成の研修の内容などを一緒に考えた。長浜地域は真宗寺院が多く、特に大谷派が多い。寺院や宗派に関わることが、回り回って地域のためになる。過疎地域の課題は長浜地域の課題でもある」

《宗派が進める支援員制度は、一カ寺一カ寺の問題に寄り添う形を目指す。現在は、九州教区と大垣教区で、教区の寺院活性化支援室と教区支援員の取り組みが始まっている》

――支援員の在り方とは。

 「当初から、『悩んでいる寺院が、どうしたいと思っているかを大切にしながら伴走する存在であるべきでは』と話してきた。主役はあくまで一つ一つの寺院」

 「ただ、伴走といっても、いきなりできるものではない。事あるごとにコミュニケーションを取りながら、何か困ったことがあったときに相談してもらえる関係性を築くことが必要だ」

 「信頼関係のない人には相談しにくく、顔が見える関係性が大切。今後、教区の合併などが進むと、教務所との距離を遠く感じてしまう寺院が多くなるはず。そのときに支援員の役割が大きくなるのではないか」

《中山氏は、慶讃法要のテーマ『南無阿弥陀仏 人と生まれたことの意味をたずねていこう』の策定委員も務めた。委員会は6人の僧俗が10回の会合を重ねた》

──慶讃テーマの策定委員も務めました。

 「門徒の立場で参加したのは、私ともう1人。僧侶の方々がわれわれの意見にしっかりと耳を傾けてくれ、事務局も含め、互いに腹を割って話せたことが印象に残っている」

 「ある委員の方は『南無阿弥陀仏は、いつでもどこでも誰でもできる』と話された。法事などでも『南無阿弥陀仏』は皆の声がそろう。誰もが知っている『南無阿弥陀仏』という言葉があることによって、教えを身近に思ってくれる人が多くなる。慶讃テーマは長く使われるので、身近な言葉が入ったことは大きい」

 「浄土真宗は、知れば知るほど面白い。自分が調子に乗ったときは『駄目だよ』といさめてくれるし、落ち込んだときは『大丈夫だよ』と支えてくれる」

 「仏教は意識せずとも生活の中にある。劇的に変わることはないが、そこに仏教があることで精神の安定につながる。慶讃テーマや法要をきっかけに、教えと何となく関わっている人たちと、もう一度縁を結び直し、関わるきっかけとなってほしい」

経済面1

 中山郁英(なかやま・いくえい) 1986(昭和61)年10月、滋賀県長浜市生まれ。早稲田大学社会科学部卒。トヨタ自動車、外資系コンサルティング会社を経て、東京大学・知の構造化センター特任研究員。2017年にUターンし、合同会社kei-fuや一般社団法人・滋賀人などを設立。地元の活性化事業を手掛けながら、カフェ・コマイテイなどを運営。真宗大谷派企画調整局参事(非常勤)。名古屋工業大学大学院を経て、現在は京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程デザイン学専攻に在学中。
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