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社説 分断を乗り越えよ

※文化時報2020年7月18日号に掲載された社説です

 新型コロナウイルスを巡って、また新しい言葉が生まれた。今度は聞き慣れないカタカナやアルファベットではなく、よく知られた単語の組み合わせだ。「東京問題」という。

 菅義偉官房長官は11日、北海道千歳市内で行った講演で、コロナ禍に関し「圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど、東京中心の問題になっている」と語った。

 新たに判明した感染者数という一点を切り取れば、たしかに東京中心の問題と言えるのかもしれない。だが、コロナ禍は東京だけで起きているのではない。

 「東京由来」という言葉もある。大野元裕埼玉県知事が繰り返し言及し、メディアも使うようになった。感染経路の見立てを示そうという表現だろうが、詳細を説明しているわけではなく、東京への不安をあおるだけになっている。

 二つの言葉に共通するのは、東京と地方の分断を招いていることだ。

 小池百合子東京都知事は13日、菅長官の「東京問題」発言に対し、「国の問題だ」と反発。これに先立つ6日には「東京由来」と言われることについて「戸惑うところはある」と記者団に語った。

 だが、当の小池知事も「夜の街関連」なる造語で、新宿や池袋の繁華街をやり玉に挙げてきた。先の緊急事態宣言下では、吉村洋文大阪府知事らが休業要請に応じないパチンコ店の店名を公表。黒岩祐治神奈川県知事は「湘南の海には来ないでいただきたい」と、外出を自粛しないサーファーたちを批判していた。

 たとえ感染防止に有効だったとしても、このような対応は看過できない。社会の分断を助長し、差別を生むことにつながるからだ。しかも、公権力の行使に当たる政府高官や知事たちが、良かれと思って公然と行ってきたところに、怖さがある。

 宗教界が歯止めをかけることは、できないのだろうか。

 内心の問題でもある差別に対し、信仰に生きる宗教者が向き合うことは、理にかなっている。伝統教団には、自らの差別問題を解消しようと活動してきた経緯がある。「コロナ差別」と呼ばれる状況を作らないための知恵は、宗教界にあるのではないか。

 教義は内心のよりどころとなり、独自の世界観は差別を生む構造を丸ごと否定する説得力を持つ。教義や信仰の違いを脇に置き、人類共通の目標に向かって連帯することもまた、宗教の得意とするところである。

 4月25日号の社説「何のための声明か」で提言したように、各教団のトップが団結してメッセージを出せないか。結束してコロナ差別の撲滅を呼び掛ければ、感染拡大の第2波に向けた宗教界ならではの備えになる。そうすれば、社会が分断を乗り越えていくための手本にもなるだろう。

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