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【3】仏教の五戒とは何だったのかと、頭を抱えた調度品。

 「これ、何ですか?」

 昨年引き継ぎのため文化時報社を訪れ、応接室に通されたときのことです。思わず前社長に、そう尋ねている自分がいました。目の前にある調度品が何なのか、分からなかったわけではありません。「なぜここにあるのか」という意味に、たしなめるような口調がつい混じっていたのでしょう。

 酒器でした。

 徳利なら、まだ花器だと言い張れるかもしれませんが、飾ってある猪口はどう見てもお酒を飲むためのものです。

 前社長は、別にどうということはない、といった感じでこう言いました。私はその答えに耳を疑ったのですが…。

 「ああ、これね。お坊さんが、入れ代わり立ち代わり置いていったんです」

 えっ、えっ? 今、何とおっしゃいました?

 仏教には五戒と呼ばれる五つの戒があり、その一つが不飲酒戒(ふおんじゅかい)、つまりお酒を飲むな、です。それなのに、お坊さんが酒器を、しかも1人だけでなく、何人も置いていっただなんて…。

 現実には、お酒をたしなむお坊さんは大勢います。お坊さんとの宴席で「なぜ、あなたは仏弟子なのに戒を破ってお酒を飲むのですか?」とは、問いません。飲みたくもないお酒にお付き合いしてくださっているかもしれないからです。

 これ以上、不飲酒戒に踏み込むと、関係各方面にハレーションが起きますので、仏弟子でない私は、お口にチャックします🤐

 しかし、これはお坊さんが応接室でコッソリお酒を味わうためにキープしてある「マイ酒器」ではないのか?

 いやいや、戒を守り抜こうと決意したお坊さんが、酒器を“目の毒”だからと、弊社に預けていったのではないか?

 と、あれこれ考えている間に、前社長が本題に入ったので、それ以上は問いただせずじまいでした。

 そして、入れ代わり立ち代わり置いていったというお坊さんが、いつ取りに来られるか分からないので、酒器は社長交代後もそのままにして飾ってあります。今のところ、持ち主は現れていません。

 客人は、どなたも酒器のことをお尋ねになりません。調度品としてもまあ、溶け込んでいる、ということにしておきましょう。

 それではみなさんご一緒に!

 「な~るほどっ、ザ・文化時報ワールドっ!」

(文・代表取締役 小野木康雄)


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