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文化財を守り、活かすマネージャーに求められるもの(3/4)

4.集客に大切なこと

(1)日本文化の理解
 文化財の活用を図るうえでもうひとつ大切なこととして、「日本文化」の理解を深めることがあります。文化財は有形、無形、民俗、記念物、重伝建など様々ですが、その多くが日本の伝統文化と深くかかわっているということに疑いを持つ人はいないでしょう。しかし、今日、それが全く無視されたまま”活用”されているということは残念なことです。
 筆者も長年にわたり地元のお琴の演奏集団の代表をつとめ、また地域の文化協会の事務局長として、地域の文化活動を行う人たちの活躍する場を提供してきました。そこで学んだことは、日本の伝統を大切にする精神、つまり「和」の心、つまり「おもてなし」の心です。合理性を追求し、結果のみを重視する今日の社会においてこうした伝統は軽視されがちです。文化財の活用においても単に合理性や収益性だけを重視した取り組みが”評価”される傾向にありますが、この「和」の心が抜け落ちていては文化財を守っていくことはできません。
 学問的な知識や仕事の経験があるから、というだけでは文化財を守り生かすためのマネージャーにはなれません。全国で活躍する人たちの中に、不思議に初めて出会ってもすぐに理解しあえる人がいますが、そうした人たちは仕事においても伝統の「和」の心を大切にしているように思えます。一方で何年も一緒に仕事をしてもお互いに理解しあえないのは、それがないからではないかと思っています。文化財を観光に生かす、つまりは人を「もてなす」ことを目的とした活動に携わるのであれば、ぜひ日本の文化、地域の文化に触れ、それを大切にする心を磨いていただきたいと思っています。

(2)人材育成と地域連携
 筆者の経験から、集客できる文化財かどうかは「文化財に関わるスタッフがその価値を正しく理解し、やりがいを感じ活き活きと仕事に励んでいるかどうか」ということに尽きます。余程魅力的なものであれば別ですが、箱物展示(施設をただそのまま公開しているだけのこと)や定期的な展示替えだけでは人は来てはくれません。集客できる施設かどうかは、スタッフがしっかりと教育されているかいないかによると考えています。
 来館者は施設に入り、受付の人の応対により施設の良し悪しを一瞬で感じ取ります。単にお金を徴収する今年だけが目的の施設なのか、価値を伝えたくてたまらない施設なのかということです。施設側の伝えたいことと、来館者の知りたいことが一致すればお客さんは何度でも来てみたいと思うし、信頼できる人からならその提案に乗ってみたい(参加してみたい)と思うものです。地域の学校や公民館も文化財やそこでの活動に学ぶべき価値があり、かつ信頼できる人がいるから利用してみたいと思うのです。地域の人たちが望まない施設に遠方からわざわざ人が来るとは思えません。無理にでもお願いしないと来てくれない施設は、そもそも価値の伝え方、取り組みの方針に問題があると思わなければなりません。

 もうひとつ大切なことは、一番身近にいる市民が紹介してくれる施設になってくれているかどうかです。観光でまちを訪れるとき、まず最初に行くのが観光協会や道の駅などのガイダンス施設です。こうした施設はまちの旅館や観光施設、文化施設などと連携していることから、そこの関係者と強力なコネクションをつくっておくことで、文化財に関心を持ってもらい、優先的に案内してもらうことができます。SNSの時代になったとはいえ、「ウィンザー効果」いわゆる「口コミ」の効果はいまだ絶大なものがあります。これも相手に文化財の価値を伝えることができるからこその成果です。「うちには〇〇資料館があります。」だけでは魅力は伝わりません。「あそこに行くと〇〇が体験できます。」とか「〇〇が教えてもらえます。」というふうに言ってもらってこそ活用することの意味があるのです。
                (4/4へ続く)


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