「今年も咲いたね」 写真家・米美知子が伝える桜の魅力
桜をテーマにした写真集『桜(はな)もよう』の発表からはや5年。写真家・米美知子さんの桜の情景を追う旅は続いています。今回あらためてこの写真集から3点の作品を選び、米さんに撮影時のことを振り返ってもらい、エピソードを紹介していただきました。
「古道の春」
毎年3月下旬から私の桜追いがスタートします。九州・四国・中国方面に行くことが多いのですが、この年は九州南部を車で巡り、有名な桜から偶然出合った名も無き桜まで、この年最初の春景色を楽しんできました。その中で印象的だったのがこの桜です。
歴史を感じさせる石橋の向こうに、2本の桜が仲良く並んでいました。苔むした橋を見守るように咲く桜と新緑の竹林が美しく、落ち着いた佇まいに心惹かれました。かつては多くの人が往来したであろう石橋も、今は苔むして月日の流れを感じさせます。2016年4月に起きた熊本地震で橋の一部は崩壊してしまいましたが、現在は修復されてこの時と同じような景観が戻ったのは嬉しいことです。
「春風に乗って」
今回、あらためて「もうこの桜を撮ってから12年になるんだ……」と、月日の経つ早さに驚いてしまいました。でも不思議と何年経っても、写真を見るとその時の状況や感動が甦ります。
この場所に着いたとき、風に吹かれた花びらがヒラヒラと舞っていました。「強い風が吹いたらもっと飛ぶかも」と思い、手前の桜にピントを合わせた瞬間、春風に乗って横の大きな桜からたくさんの花びらが飛んできたのです。ほんの一瞬の出来事でしたが、その場に居合わせることができた喜びに「神様ありがとう!」と、思わず声が出ました。その後も何度かこの場所には足を運んでいますが、この時のような花吹雪は見たことがありません。この桜を見ると、一期一会の大切さをいつも感じます。
「揺らめく心」
北国だけでなく関西から関東周辺でも、少し標高が上がると見頃がゴールデンウィーク前後になる桜が多くあり、私の桜追いも5月中旬頃まで続きます。この時は桜を撮るつもりではなかったのですが、たまたま通りがかった池に浮かぶ花びらに心を奪われてしまいました。
公園などでよく見られるコンクリートでできたごく普通の浅くて小さな池。池には小さな噴水があり、その噴水の水が作り出す波紋や揺らぎが移り変わるので、いつまでも撮影を止められませんでした。花筏の形もどんどん変わり、薄曇りの空を映す水面の輝きと、表面張力などを高速シャッターで写し止めるのが楽しい一人遊びでした。
「今年も咲いたね」
厳しい冬が終わり、日射しに暖かみを感じる頃、各地でこの言葉を聞くと嬉しくなります。南北に長い日本列島の桜前線は、1月下旬の沖縄から始まり、5月下旬の北海道に到達するまで約4か月間も楽しむことができるのです。
清楚な山桜、人の暮らしに寄り添う桜やご先祖様を守る桜、街路樹や公園樹の桜、そして人知れず咲く桜……。
辛いことや悲しいことがあっても、美しい桜を見上げると心が落ち着き安らぎます。
日本人にとってこれほど開花を喜ぶことができる花は、他にはないかもしれません。
そんな世界に誇れる美しい桜の情景を追い続けてきました。各地で出合った桜が、これから先もずっと元気に花を咲かせてくれることを祈って、これからも撮り続けていきたいと思います。
写真集『桜もよう』
米美知子さんのサイン入り特別版を限定販売中。
米美知子プロフィール
写真家
日本の素晴らしい自然と色彩美を独創的な視点で表現。
中でも表情豊かな森に魅せられ、北海道から西表島まで日本の森を撮り歩く。
「米美知子写真教室」主宰
ペンタックスリコーフォトスクール・キヤノンEOS学園講師
日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員
ワイ. ワン フォト 米美知子写真事務所公式ウェブサイト