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夕方から飲む


敦は、子供たちに工作などを教える青少年指導員連絡協議会という団体に入っている。神奈川県から委嘱され、市が運営している。有料ボランティアという職についている。わずかな金を貰っているが、意外に忙しい。指導者研修会が行われた。市の用意した会場で、20人足らずで行った。研修会は、二部制になっていて、新人指導員のための通称、青指連の仕組みについてのレクチャーの後に、工作指導があった。二部は、「親子ナイトウォークラリー」の試走をした。

敦は、足も不自由なので、参加せず、帰ることにした。いつもは、車で送り迎えしてくれる村中薫が、試走に参加するというので、歩いて帰ることになった。「なんとなく、飲みたい」まだ3時半であった。駅前まで15分もあれば着く。仕方がないので、4時に開く居酒屋の「なか屋」に着くまで、ビナウォークの2階にある百均の「ダイソー」で時間を潰すことにした。


大衆酒場「なか屋」は、190円、290円、390円の三つのメニューがメインで、厚揚げ、マグロぶつ、持つ煮込みを頼んだ。ビールの「エクストラコールド」を頼んだ。キンキンに冷えた生ビールのことで最初の一杯はこれだと決めている。まだ、敦は一人で飲んでいるので、厚木にある酒蔵「盛升」の熱燗2合を飲んでいた。久々の日本酒に嬉しくなった敦は、女友達の小百合に電話したが、用事があると断られた。それでも5時に開く焼き鳥屋「創玄」の開店までは、時間があるので、ちびりちびり日本酒を飲みながら時間を潰した。普段、日本酒を飲まない敦が飲んだのは、ゆっくり時間をかけて飲めるためだった。

炭火やきとり「創玄」は、敦の前妻とにできた次男坊の創太の店である。商売上手で、イオンの敷地に屋台風の二店舗目がある。小学生高学年で別れたが、敦とは頻繁に会っていたので、親子関係のいざこざは特にない。兄の玄太の方が、積極的で事業家になりそうだったが、創太が事業家として出世している。親子と言えども、びた一文まけない態度が気入っている。「創玄」が開いたと同時の5時過ぎに行ったら、「6時までだったら、いいよ。予約が入っているから」「分かった」すると玄太の友達だという野菜の卸をしている男が現れた。

名前は忘れたが、敦を知っているようだった。強面の友達は、「結婚式場と葬儀場がやばいんで、野菜が卸せないので困っている」と教えてくれた。想像を超えた業種がコロナで喘いでいるのが判った。ちょうど、玄太に電話をして、男に変わった。二人の通話が終わったので、呼んでみたら、なんとか都合がつきそうだったので、電話を切って、6時になり串焼きの「電撃坊主」に移動した。生ビール二杯と5本ある焼き鳥セットを頼んで、平らげ退散した。

串揚ダイニング「電撃坊主」は店名も過激だが、パンクバンドをやっていたという店主は、ユニークな経歴の持ち主だ。自転車でやって来た長男坊の玄太と合流した。串揚げをお任せで頼んで、メガハイボール三杯も飲んだ敦は、いつもより酔っていないように思えた。萌と書いてメグと読む女房が敦は、大好きだ。男女でなく、捌けている点や元気よく働いている点だ。そのメグは、イラストを自分で描いて店内に飾っている。もちろん、ホームページにもデカデカと掲載されている。

創玄と電撃坊主とは、「喰の道場(しょくのどうじょう)」の卒業生だ。「喰の道場」とは、海老名市内の商店会の有志により2004年9月に設立された、商店街活性化の取り組みのひとつ、社会実験型集合店舗である。運営はまちづくりを考える商店会の経営者10人によって結成された「株式会社これでもかっ」。当初より10年間の期間付きで開始された試みで、予定通り2014年8月を以って閉館された新人達の飲食店の伝説の道場だった。(Wikipediaより)

新人とはいえ一国一城の主人だが、フードコートのように、6〜7店舗がひしめき合って生き抜いた同志たちだからこそ、先輩、後輩の境がなく、誰よりも強い絆で結ばれていた。そんな恵まれた環境にいたからこそ、道場だった周辺に店を構える人が多い。創玄も電撃坊主も例外ではない。仲良く仲間と肩を寄せ合って、助け合いながら、難局やコロナを乗り切っている姿が羨ましく感じる。

いよいよ、敦は、坂の上のラーメン屋「横濱亭」に乗り込んだ。二人はおつまみだけたのんで、生ビールとハイボールを飲み続けていた。ちなみに、玄太はハイボールを10杯飲んで、ラーメンを食べたとFacebookに書いていた。丁度、同級生の小山がひょっこり現れた。調子に乗ってガブガブので泥酔した敦は、記憶のないまま、タクシーに乗せられ、帰宅した。

「よくもお腹にこんな量入るものだと感心してしまう。二十代三十代の飲み方だった。まだまだ、若いモンには、負けられらない。」
「賢い若いモンは、こんなバカな真似をしないよ」と瑠璃子にキツイ一言を言われた敦は、居間でそのまま寝込んでしまった。
風邪をひかないように掛け布団がかけられたいた。
敦は、目が醒めて、寝室に行ったら、敷布団しかないので、大慌てで探していると、
「居間に掛け布団があるでしょ」と瑠璃子を起こしてしまった。
酔っ払いは、始末に負えない。それでも、ついて来てくれる家族に感謝している。
突然、布団のように誰もいなくなったらと思うと凍ってしまう。
敦は、息子二人に会えて、満足している。
この世にみんながいることだけでも幸せだと痛感している。
酔った頭でも、感謝だけは忘れないように心がけている敦であった。

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